乳滴/2018年10月1日号
心ときめかせた瞬間
心ときめかせた瞬間や感動があって、仕事に飛び込めた人は、後の結果に関わらず第一歩目としては、幸せだろう。「酪農家って何がおもしろいですか」と聞かれたら、何と答えるだろう。
「羊と鋼の森」(宮下奈都著、文春文庫)には、そんな事を考えさせられる。主人公が高校生の時にピアノの調律師に魅せられた。様々に思い悩む中で調律師として成長していく物語だ。自分の能力への疑問、先輩、同僚、調律先の人々との葛藤などを通してピアノ調律師の世界が垣間見える。
この本を紹介したもう一つのねらいは、上手くなりたいと、もがく主人公と先輩の会話の中に乳製品(チーズ)が出てくるからだ。
「お客さんにチーズみたいな音に調律してくださいって、言われたらどうする」(先輩)「色や、匂い、やわらかさ、もちろん味も、発酵と熟成の具合によってある程度想像できる。そこから音をたぐっていくのはどうだろう」(主人公)など、思いつくイメージが多ければ多いほど良いという話になった。などと、会話が続く。
実は、世界の文学作品には牛乳乳製品が作品中に出てくるものが結構ある。本会の元職員の平出君雄氏(故人)がまとめた力作「酪農と文学」を本会ホームページで閲覧できる。