乳滴/2019年6月1日号
家族で暮らせる価値
山地酪農の提唱者、故猶原恭爾(なおはら・きょうじ)氏。吉塚公雄氏は48年前の東京農大時代に同氏とその教えに出会い人生を捧げる決意をした。23歳で千葉県から岩手県田野畑村に移住。先輩の牧場で実習しながら丸3年。山林10㌶を購入し、開拓生活が始まった。プレハブの家に住み、ランプ暮らし生活も10年続いた。
28歳で登志子さんと結婚。本年6月に68歳になる公雄氏だが、5男2女9人の酪農大家族の喜怒哀楽の日々が、ドキュメンタリー映画「山懐に抱かれて」と題して5月以降、全国で順次公開されている。地元のテレビ岩手が24年もの丹念な取材を続けて完成した力作だ。
映画の中で公雄氏が家族を他人の集まりと語るシーンがあるが、実際にはその言葉とは正反対の濃密な家族関係の豊かさが心にしみてくる。「生活費までも借金。2000万円もの借入れになり周囲の人達に助けられてきた」と経済的には厳しい実態も描かれる。
しかし、生きる目的、喜び、悲しみはどういうことか。スクリーンから吉塚一家がおのずから教えてくれる。食事前に全員で名前を次々呼び合い、最後に「牛さんありがとう」。開拓入植時代の10年間のランプ生活を振り返った吉塚一家の賑やかな食事風景が印象的だった。