全酪新報/2016年4月10日号

「規制改革会議・農業WGが指定団体制度の廃止など提言」―加工原料乳の交付金対象の多様化・同等条件化を主張

2016-04-10

規制改革会議農業ワーキンググループ(WG)は3月31日、生乳流通等の見直しに関する提言を公表した(一部既報)。加工原料乳生産者補給金の交付対象を国が指定する団体(現行の指定団体)に限定せず、独自の販路開拓や新たな共同販売に取り組む生産者にも同等な条件の下で交付対象となれるよう求めている。既存の団体を通じた共同販売を望む生産者はこれまでどおりの取引が選択できる。また、学校給食牛乳供給に係る業務や乳製品国家貿易の運用についても見直しを求めた。

お断り=本記事は4月10日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。

「自民党畜酪小委員会で規制改革会議の提言に異論が続出」―「連休前に方針まとめる」と坂本委員長

2016-04-10

自民党畜産・酪農対策小委員会(坂本哲志委員長)は4月6日、自民党本部で会合を開き、指定団体制度の廃止を求めた規制改革会議の提言について議論した。出席議員からは、需要に応じた生乳を供給するための需給調整や集送乳合理化等で指定団体が果たしている役割の大切さを訴える声が続出した。規制改革会議の提言に対して慎重な議論を求める意見が相次いだ。坂本委員長は「5月の連休前までに党としての考えをまとめたい」と説明した。


農水省の今城健晴生産局長は、①地域の酪農家を代表して乳価交渉の代行②低コストでの集送乳③季節や日々の天候による生産・消費動向など、需給変動に応じた適正な販売――など指定団体制度による生乳需給調整の役割を説明した。また、指定団体に委託しつつ酪農家が牛乳・乳製品を自家製造(日量3㌧以下)できるなど、多様な生乳販売の仕組みがあることを紹介した。


会合では、伊東良孝農水副大臣が「大雪や暴風雨の中でもローリーが酪農家を1軒1軒回っていく光景を見ていると、指定団体をなくして自由にするという話は、相当難しいと感じる。また、北海道の生乳を都府県に回せば良いと(提言で)書かれているが、それでは日本の牛乳流通は大混乱に陥る」との認識を示し、党の議論を求めた。


中川郁子衆議は、乳業工場が急きょ稼働できないときや自然災害時でも、(現行の指定団体のあるお蔭で)配乳調整により安定供給できる役割を強調。さらに、政府がTPP政策として、液状乳製品向け生乳の補給金追加と単価一本化等に向けた議論をすでに進めていることに言及。「酪農家はTPP大筋合意で動揺している中でも、対策があるから頑張っていこうとしている矢先に、このような提言が出て憤りを感じている」と苦言を呈した。


山田俊男参議は、昨年7月に生乳流通・取引のあり方をめぐり自民党の提言をまとめた経緯をふり返り「党であれだけ議論したのに(規制改革会議を所管する)内閣府は何やっているのか」と語気を強め、「需給調整に対する整理が大雑把だ。だからこのような結論を出してくる」と指摘した。


野村哲郎参議は「EUが昨年、生乳クオータ(生産調整)制度を廃止したところ、(生乳が)たいへん余っていて酪農家の乳価が大きく下がっている」と諸外国の事例との比較検証を求めた。


西川公也農林水産戦略調査会長は「酪農家が今より良くなることが前提。悪くなるなら我々の考え方と相容れない」、小泉進次郎農林部会長は「指定団体制度は、酪農経営安定に果たしてきた歴史があるが、これからの役割は何かを忌憚なく議論したい」とそれぞれ見解を述べた。

「酪政連・ホクレンなどが森山農相に指定団体制度の維持を求める」―農相は一定の理解を示す

2016-04-10

規制改革会議農業WGの提言を受けて、酪政連、ホクレン、JA北海道中央会の代表は4月6日、農水省に森山裕農相を訪ね、指定団体制度の機能維持を訴える緊急要請を行った。


要請を受けて森山農相は「指定団体制度は、全国で酪農が成り立つ仕組み。制度が果たす機能の維持が大事であり、機能がおかしくなる改革は改悪だ。そうならないよう関係省庁とよく協議する」と理解を示した。酪政連の佐々木勲委員長、佐藤哲副委員長、井上久副委員長、ホクレンの佐藤俊彰会長、瀧澤義一副会長、北農中の飛田稔章会長らが要請した。


指定団体制度の役割の大切さを強調した森山農相に対してホクレンの佐藤会長は「ありがたく、力強い」とコメントした。なお、佐々木委員長ら酪政連の代表は同日、坂本哲志自民党畜産・酪農対策小委員長など与党幹部への要請活動も行った。

「全酪連の牛用配合飼料、4~6月期は3700円/㌧の下げ」―円高の進行と主原料の弱含みが要因

2016-04-10

全酪連は3月22日、4~6月期の牛用配合飼料価格を前期に比べ全銘柄平均1㌧当たり約3700円値下げすることを会員に通知した。円高が進行したほか、主原料のトウモロコシや大豆粕の相場も弱含みで推移するなど原料動向によるもの。


哺育飼料は1㌧当たり1万1千円値下げする。配合飼料と同様に、為替相場による影響と乳製品の国際相場の下落が要因としている。


また、JA全農は3月18日、4~6月期の配合飼料価格を全国全畜種平均1㌧当たり約3700円値下げすると発表した。改定額は地域・畜種・銘柄ごとに異なる。

「指定団体制度の廃止は間違い」鈴木宣弘東大教授が緊急反論

2016-04-10

政府の規制改革会議・農業ワーキンググループは3月31日にまとめた「生乳流通等の見直しに関する意見」の中で、現行の指定団体制度を廃止し、指定団体を通じない販売に関しても同等の条件を整備するように制度改正を求めることなどが盛り込まれた提言を公表した。規制改革会議が6月に首相に答申する方向性を示したもので、このままでは酪農乳業界に大きな影響を及ぼす。本会の酪農研究会のワーキングチームの委員の一人、東京大学の鈴木宣弘教授に緊急に反論いただいた。


当初から狙われていた指定団体制度


農協の株式会社化の議論が出てきたとき、私は、これは農協の共販に対する独禁法の適用除外をやめさせて大手小売などが農家との個別契約化を進めて農産物をさらに買いたたこうとするもので、指定団体制度「こそ」狙われているとの認識を早くから提示したが、農協改革は総合農協の議論だから直接の影響はないとの意見が多かった。やはり、その認識は甘かった。


指定団体廃止は理論的に間違い


生乳市場では、経済学的にも、規制緩和は正当化されない。規制緩和が正当化されるのは、市場のプレイヤーが市場支配力を持たない場合であり、市場支配力を持つ市場では規制緩和が不公正な価格形成を助長する。


今でも小売に「買いたたかれ」ているのに、「対等な競争条件」の実現のために、生産者に与えられた共販の独禁法適用除外をやめるべきだという議論は、今でさえ不当な競争条件をさらに不当にし、小売に有利にするものであり、市場の歪みを是正するどころか悪化させる、誤った方向性であることを改めて認識しないといけない。逆に、大手小売の「不当廉売」と「優越的地位の濫用」こそ、独禁法上の問題にすべきである。


我々の試算では、我が国では、メーカー対スーパーの取引交渉力の優位度は、ほとんど0対1で、スーパーがメーカーに対して圧倒的な優位性を発揮している。


一方、酪農協対メーカーの取引交渉力の優位度は、最大限に見積もって、ほぼ0.5対0.5、最小限に見積もると0.1対0.9で、メーカーが酪農協に対して優位である可能性が示されている。


このように、指定団体制度による共販が行われていても生産者が「買いたたかれている」現状があるのに、それを壊したら、事態はさらに悪化する。


英国で起きた大手スーパー、多国籍乳業の市場支配力の助長


その結果何が起こるかは歴史が証明している。独禁法の適用除外組織として英国の生乳流通に大きな役割を果たしてきた英国のMMB(ミルク・マーケティング・ボード)解体後の英国の生乳市場における酪農生産者組織、多国籍乳業、大手スーパーなどの動向は示唆的である。


MMBが1994年に解体された後、それを引き継ぐ形で、任意組織である酪農協が結成されたが、その酪農協は酪農家を結集できず、大手スーパーと連携した多国籍乳業メーカーとの直接契約により酪農家は分断されていった。


酪農協からの脱退と分裂が進んで市場が競争的になっていく中で、2000年に欧州大陸の乳製品価格が高騰した当時でも、英国の乳価のみが下落を続け、余乳の下限下支え価格であるIMPE (EUのバター、脱脂粉乳介入価格見合い原料乳価)水準にほぼ張り付くようになった。


メーカー直接取引量は、09年には英国の全生乳の70%を超えるまでに増えた。大手スーパーのさらなる寡占化の進行と、それらと独占的な供給契約を結んでいる多国籍乳業メーカーの市場支配力の増大の結果である。


MMBの独占性を問題視して解体したが、その結果、大手スーパーと多国籍乳業の独占的地位の拡大を許し、結果的に、酪農家の手取り乳価の低迷に拍車をかけたことは競争政策の側面からも再検討すべきと思われる。


つまり、一方の市場支配力の形成を著しく弱めたことにより、カウンターベイリング・パワー(拮抗力)を失わせ、パワーバランスを極端に崩してしまったのである。このような政策は著しく公平性を欠くと言わざるを得ない。


大手スーパーと多国籍乳業の独占的地位の濫用にメスを入れずに、生産者サイドの独占を許さないとしてMMBを解体し、独占禁止法上の例外規定も有しない協同組合に委ねたことが、大手スーパーと多国籍乳業の独壇場につながった。「対等な競争条件」にして市場の競争性を高めるというのは単なる名目で、実際には、まったく逆に、生産者と小売・乳業資本との間の取引交渉力のアンバランスの拡大による市場の歪みをもたらしたのである。日本で、同じことが画策されている。


TPPを見越した多国籍乳業の動きに注意


多国籍乳業の行動について、我が国でも、TPPの進展を先取りし、酪農家への技術協力などの支援から始まり、酪農家を個別に取り込んでいく、将来的な直接契約を視野に入れた動きが出てきている。


乳製品は本国から輸入しつつ、飲用乳については、日本国内の生産で、近隣のアジア諸国も含めて販売するビジネスが成立するからである。すでに、流通大手との連携も進んでおり、今後、国内の既存の乳業メーカーとの提携は、買収といった動きにも転換していくだろう。そういう流れからも、指定団体制度はじゃまなのである。


MMJは指定団体制度があるから成立している


また、MMJのような取引は、指定団体制度によって安定した乳価形成と取引があるから、それをベースにして独自ブランド牛乳を売りたいといったような酪農家の個別要求に応えるビジネスとして、役割分担して「共存」できるのであり、指定団体制度がなかったら、MMJ的ビジネスは成立しないということを考える必要がある。


対照的なカナダ「三方よし」の価格


14年9月のバンクーバー近郊のスーパー店頭の全乳1㍑紙パック乳価は3㌦(約300円)で、日本より大幅に高かった。しかし、カナダの消費者の多くが、私の研究室の学生のアンケートに「米国の成長ホルモン入り牛乳は飲みたくないから、カナダの牛乳を支える」と回答した。


カナダでは、制度的支えの下での「州唯一の独占集乳・販売ボード(MMB)、寡占的メーカー、寡占的スーパー」という市場構造に基づくパワーバランスによって、生・処・販のそれぞれの段階が十分な利益を得た上で、最終的には消費者に高い価格を負担してもらい、消費者も安全・安心な国産牛乳・乳製品の確保のために、不満を持っていないのである。


つまり、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「3方よし」の価格形成が実現されているのである。そのためには、TPPで断固たる対応が必要になり、カナダはそれを押し通した。


我が国のように、「今だけ、金だけ、自分だけ」の「3だけ主義」に陥り、買いたたいて生産者にしわ寄せをしていると、みんなで泥船に乗って沈んでいくことを気づく必要がある。


これ以上、生産者が苦しくなって生産が減ってしまったら、最後には、流通業界もビジネスができなくなるし、消費者も国産の牛乳が飲めなくなる。そうなってからでは遅いことを、国民が、いまこそ認識すべきときである。


それにしても、規制改革会議という法的位置づけもない諮問機関において、一部の利益のために国の方向性を一方的に勝手に決めてしまう流れは不公正かつ危険極まりなく、これ以上の暴走を許すわけにはいかない。

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