全酪新報/2019年10月10日号

「日米貿易交渉、乳製品TPPと同水準措置」――脱粉・バター米国枠設定せず

2019-10-10

日米両政府が、このほど最終合意に至った日米貿易協定では、農産品については「TPP水準の範囲内」で市場開放に応じることで合意した。そのうち乳製品は、TPP11で生乳換算6~7万㌧の低関税輸入枠(ワイド枠)を設定していたが、脱脂粉乳・バターは新設するとTPP以上となるため新たな「米国枠」は設定せず、ホエイとチーズもTPPと同内容を措置した。19年度中に同協定が発効する場合は発効中のTPP11協定に合わせ、各品目の関税撤廃等の年は1年短縮した形でスタートすることになる。脱粉・バター、ホエイやチーズ以外の各乳製品も同協定から除外した品目を除き関税撤廃年や削減率の変更はない。

お断り=本記事は10月10日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。

「自民党、共同声明に沿った内容」――8日に署名、発効は来年1月

2019-10-10

自民党が10月1日夕方に開いた会合では、今回最終合意に達した日米貿易協定の概要等について政府側が報告。合意結果に対し、TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部の森山裕本部長は「(昨年の)共同声明の内容に沿った形でバランスがとれ、十分に説明ができて国民の皆さんに納得いただける内容でまとめていただいた」と受け止めを述べた。両政府は8日、法的審査などを終えて正式に署名。米国政府は大統領権限で議会の承認を経ずに進める方針で、日本で4日より会期中の臨時国会(第200回国会)において承認が得られれば、来年1月1日にも発効するとの見方も強い。


同協定の結果に関する説明によると、農産品の関税撤廃率はTPPで82%だったのに比べ、今回は4割以下に留まった。脱粉・バター等のワイド枠の品目をはじめ、農産品全体で「TPPの範囲内」となったが、農産品については米国との将来の再協議規定もあることから、今後の動向には注視する必要がある。


交渉を担当してきた茂木敏充外相(前経済再生担当相)は、今回の交渉結果について「農家の皆さんに安心していただけるもので、産業界にも十分納得いただけるものに仕上がったと思う」とした上で、今後速やかな発効に向けて進めていく意向を示した。

「台風被害支援、北海道地震ベースに一部拡充」――乳房炎対策、畜舎の簡易修理など

2019-10-10

各地に甚大な被害を与えた8~9月の前線に伴う大雨と千葉県に長期停電による台風15号等による被害に対して、農水省は10月1日に支援対策を取りまとめた。酪農に関しては、北海道地震への支援をベースに、特に千葉で約2週間にわたり続いた停電の影響をふまえ、乳房炎対策の一部を拡充した形で整理。畜舎や飼養管理の付帯施設の簡易な修理、乳房炎の治療薬の購入費用や予防管理などに補助率2分の1以内等で支援する。


同対策は8~9月の大雨に加え、台風10号、13号、15号、17号による被害が対象。酪農関連では、被災した酪農家に対しては▽簡易畜舎等の整備(補助率2分の1以内)▽畜舎の修理、飼養管理の付帯施設や機械の簡易な修理(同)▽乳用牛の地域内の酪農家への避難や預託(同)▽家畜導入(上限は妊娠牛1頭当たり27万5千円、繁殖雌牛1頭当たり17万5千円)▽乳房炎の治療・予防管理等(補助率2分の1以内等)▽停電時の電源確保に要した発電機の借上げ等(同)――をそれぞれ支援。加えて、被災酪農家における応急的な搾乳作業等のためのヘルパー利用は、傷病時等の互助基金の対象に追加する。


また、当該災害における自給飼料の品質低下を抑制するための発酵促進資材の購入費助成として補助率2分の1以内、給与前の品質確認のための分析費に定額、台風被害により不足する粗飼料の購入費に対して定額(1㌧当たり5千円以内)の支援を実施。飼料作物の栽培継続を断念せざるを得ない場合の支援としては、水田活用の直接支払交付金において、飼料用米等の収穫、出荷・販売できない場合は10㌃当たり5.5万円が交付される(飼料用米等の数量払いの標準単収値は、当年産の作柄に応じて調整)。そのほか、強い農業・担い手づくり総合支援交付金の中で、畜舎・農業用機械等に対する支援も行っていく方針。


自民党が10月1日に開いた会合では、農水省が同支援対策の内容等について説明。その中で、千葉県における長期停電の酪農への影響をふまえ、今回の対策について「北海道地震と同様の形で支援させていただく。生乳廃棄に対する支援は中々出来ないが、乳房炎の予防等の対策に対して生乳廃棄に見合うような支援ができるように整理した」としている。

「千場県内の全ての乳業工場が再開」――台風15号被害

2019-10-10

千葉県酪連によると、台風15号により長期間停電した影響で稼働停止していた古谷乳業成田工場は、10月1日より学乳製造ライン、翌2日に全ての製造ラインが稼働。それにより、千葉県内の全ての乳業工場が製造を再開した。同県酪連は牛舎や施設の損壊、乳牛の斃死などの被害状況を10日に取りまとめる。


千葉県農林水産部の4日の発表によると、生乳の被害は1248㌧、1億4282万円に及ぶとしている。

「連載①次期酪肉近を前にして・酪農家戸数について考える」――畜産・飼料調査所「御影庵」主宰 阿部 亮

2019-10-10

来春2020年3月には「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(酪肉近)が農林水産省から公表される。今後10年、2030年を目標年度として、政策と技術を融合した計画が打ち出される、バイブルとも言ってよい重要な文書である。それを前にして、酪農について皆さんと一緒に、今までと、これからを考えてみたい(全6回。次回から毎月1日号に掲載)。第1回目は酪農家戸数の問題をとりあげる。酪農家戸数は乳牛の飼養頭数を介しての国内の生乳生産量と、農村文化に大きな影響を持つからである


農業人口は2.8%


最初に、マンパワーとしての農業人口が国内の総就業人口に占める割合、地位の歴史的な変化を見てゆく、日本が高度経済成長期に入りかける1960年のその値は27.0%であったが、それは95年には5.1%、2010年には4.1%、そして17年には2.8%にまで落ち込んでいる。


相対的に製造業、建設業、運輸、金融、流通業などの第2次、3次産業の就業者が増えてくる。同時にそれは都市への人口集中と地方の人口減少に直結し、農業生産力を低める結果をもたらせている。


マンパワーの異動は国内総生産(GDP)の内容変化をともなう。10年10月、時の外相がTPPに関連して、「GDPの割合で1.5%の第1次産業(農林水産業)のために98.5%が犠牲になっている」と農業軽視、蔑視と言ってもよいような発言をしている。


60年度の食料自給率(カロリーベース)は79%と高かったが、18年度は37%と落ち込んでしまっている。こんなに低い先進国は世界では見られない。工業化社会への傾斜の進行がこのような事態を生み出している。社会の構造的な問題としてこれからを考えることが大切であろう。


ピーク時の96%減少


酪農の世界に目を転じよう。先述の60年という年は日本が高度経済成長期に入り始めた頃で、食生活の向上、洋風化に伴う牛乳・乳製品の需要増に応えるべく、酪農家戸数は41万戸と以前と較べて多くなり、40万戸台が5年間は維持されるが、それ以降は減少し、19年2月の酪農家戸数は1万5千戸。60年と較べて約96%の減少である。


直近、15年度と18年度の生乳需給を見てみよう。この間に酪農家戸数は2千戸減少している。生乳生産量は741万㌧が728万㌧に下がっているが、生乳総供給量は1204万㌧が1245万㌧と需要が増加しているということだ。そのために輸入量(生乳換算量)が463万㌧から517万㌧に増え、自給率は61.5%が58.5%と3%下がっている。


国内生産量からの飲用等向けの量は両年度ともに401万㌧と変わらないから、国産生乳からのチーズ、バター、脱脂粉乳の生産量は減少し、輸入量は国内の減少量よりも多い。


規模拡大では戸数減賄えず


生乳生産量は乳牛の飼養頭数と経産牛の1頭当たり乳量によって規定され、乳牛の飼養頭数は酪農家戸数と1戸当たり飼養頭数によって規定される。1戸当たりの飼養頭数は経年的に確かに増加しているが、規模の拡大が戸数の減少を補償する水準にまでなっているだろうか。


例えば、09年の飼養頭数150万頭を19年にも維持しているとすれば、19年の1戸当たりの飼養頭数は100頭でなければならないが、実数は89頭である。つまり、この10年を見る限り、そうはなっていない。戸数の維持が大切なのであり、これ以上戸数が減ってはならないと思う。


しかし、これからを考える場合には、過去の戸数減少の動向と酪農離脱の要因を分析し、そこから対策を考えるという作業が必要である。その周辺を考えてみる。


酪農離脱の要因を挙げてみよう。「高齢となり、多様な酪農作業への対応が家族労働力だけでは出来なくなってきた」「しかし、後継者はいない」「飼養管理技術の向上が出来ずに生産性が低い」「経営がうまくゆかない」「負債が多い」「規模拡大をしたいが土地が狭小で家畜排泄物の処理にも限界がきている」「施設や機械が老朽化している」「日本酪農の将来が不安」――等々があろう。


離脱の主要因は?


それぞれの要因の中でどれが主要因となって酪農離脱に至るのか、17年の農水省の調査では、「高齢化・後継者問題」が離脱要因の44.4%と最も多い。この問題を中心としながら、他の要因が複層的に作用した結果として、一定の傾向が、統計的な数値となって表現されてくる。それがトレンドであり、それは社会の必然として冷静に受け止めなければならない、いわば、不都合な真実(ファクト)である。それを09年~19年の酪農家戸数の変化で確認しよう。北海道と都府県について、年度と酪農家戸数の間の一次回帰分析を行ってみた。


09年~16年の間は両地域ともに相関係数が-0.99と1に近い直線的な減少グラフとなり、年率の減少数は北海道が197戸、都府県が660戸。16~19年の間は、直線的な減少動態には変わりがないが、減少のテンポがそれまでと較べて、緩やかになってきている。減少年率は北海道では173戸、都府県では485戸である。これには乳価の上昇が影響していると考えられる。


経営主の年齢層


このトレンドがこのまま続くとすると、今度の酪肉近の目標年度である30年の日本の酪農家戸数は7805戸と今年2月の1万5千戸の約半分となってしまう。そうなるのか、統計的な予測にはそれを説明出来るような社会科学的必然性がなければならない。


中央酪農会議が行った17年度の全国酪農基礎調査に見てみよう。経営主が60歳以上の酪農家比率は北海道で30.4%、都府県は56.2%である。そして、50歳以上の経営主の所で、「経営者有り」と「後継者なし・わからない」が北海道では18.3%と32.0%、都府県では26.9%と50.6%で両地域共に後者の比率が高いのである(次回は11月1日号)。

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