全酪新報/2025年10月10日号
購読お申込みはこちらから
「酪農経営安定へ一致団結、今後も酪農を続けられる対策急務」――自民党酪政会
自民党酪政会(森英介会長、千葉11区・衆議)は10月2日、衆議院第一議員会館で総会を開き、酪政連より酪農政策や予算確保に関する要望を聴取。議員からは、酪農ヘルパーの要員確保に関して意見が相次いだほか、鳥獣被害対策に関して現場に十分行き渡る予算確保が必要との声も上がり、酪農家が今後も各地で経営を続けられるよう、団結して取り組む姿勢を再確認した。(右:森会長)
冒頭、森会長は最近の酪農情勢をめぐり「この数年の乳価引き上げに加え、最近では副産物の子牛価格がやや上向いており、最悪の時期は脱したのではないか。しかし飼料を含む生産資材は高水準が続き、とりわけ農業用機械もモノによっては数年前の倍以上に高騰。壊れても買い換えられないとの声も聞く。消費拡大も引き続き最重要課題だ」と依然対応すべき課題が山積していると強調。自民党酪政会として「現場の声を今後の活動の糧としたい」と話した。
続いて挨拶した酪政会幹事長の江藤拓衆議(宮崎2区)は「今のコメの高騰で水田活用の直接支払交付金がどうなるか、その結果、粗飼料生産にどう影響するか。自給飼料は畜産全体の大問題なので、真剣に取り組んでいく」と強調。その上で「一連の乳価引き上げで一息つけたが、設備投資の償還に苦しんでいる方も多い。離農も進んでおり金融的な支援や担い手確保など、今後も牛乳・乳製品が安定供給されるよう、ともに頑張っていこう」と述べた。
総会では、農水省の長井俊彦畜産局長が酪農をめぐる情勢を説明。その後、酪政連の柴田輝男委員長が、来年度予算の増額や酪農ヘルパーの要員確保、鳥獣被害対策など、今後の酪農政策・予算確保に関して要請した。
議員のうち鈴木憲和衆議(山形2区)は酪農ヘルパーの要員確保について「特に家族経営では酪農ヘルパーは大切な存在。人手不足から各企業で賃上げが進むなか、家族経営では簡単に酪農ヘルパーを確保することはできない。この状況を放置しても悪化するだけ。県や地域の酪農組合任せではなく、国全体で関係団体とともに、人材不足解消に取り組むべき」と求めた。
坂本哲志衆議(熊本3区)は酪農ヘルパー組合に対する支援について「家族経営がこの先も残っていけるよう来年度予算でしっかり考えていかないと、若い人が業界に入って来なくなってしまう」と危機感を示した。
酪政会事務局長の伊東良孝衆議(北海道比例)は「酪農ヘルパーの収入と生活の安定が図られるよう、給与や福利厚生を含めて(待遇を)、例えば役場や農協職員並みに整備し、そこから意欲ある人が5年10年経験を積んで、安心して新規就農など夢を追うことのできる職業としていくべき」と語った。
また、鳥獣被害対策に関して藤木眞也参議(比例)は「ハンターの活動に対する助成だけでなく、柵の設置などの補助も含め、予算がショートしている。そうならないよう、まず予算額をしっかりと確保しなければ、いつまで経っても農業への鳥獣被害は収まらない」と述べた。

衆議院第一議員会館で開かれた酪政会総会
「26年度の酪農政策・予算確保に向けた要請内容協議、予算の増額やヘルパー確保等課題整理」――酪政連・中央委員会
酪政連(柴田輝男委員長)は酪政会総会後に中央委員会を開き、26年度酪農政策・予算確保に向けた要請内容を協議。補正予算を含む26年度酪農関連予算の増額、酪農ヘルパー要員の確保など、要望の実現に向け活動する方針を確認した。多くの委員からは酪農存続のためにも、酪農ヘルパーの要員確保に向けた対応が課題との声が上がった。(右:柴田委員長)
開会にあたり柴田委員長は、8月の飲用乳価値上げに加え、副産物価格が回復基調にある一方、飼料の高止まりや農業機械の高騰など、依然厳しい状況を説明。その上で「全国の酪農家が安心できるための要請活動を考えながら、改めて一丸で頑張ろう」と呼びかけた。
会合では、5月に示した要請事項からの変更点を説明。酪農ヘルパーに関する関連対策の継続・拡充や酪農ヘルパー組合の人材確保に向けた思い切った予算措置、いわゆる水活交付金の継続・拡充を優先事項として加えた。また、鳥獣被害対策として関係省庁の密接な連携による実効性ある対応の早急な実施、猟友会に対する支援強化も求めている。
そのほか、牛乳・乳製品の消費拡大施策、自給飼料生産が不利な地域等に対する中長期的な支援施策の構築なども引き続き要請する。
委員からは「酪農ヘルパーがいなければ、地域で酪農が成り立たない」「酪農ヘルパー定着に向け、処遇改善を進めるためにも予算確保が重要」など酪農ヘルパーに関する意見が多数上がった。
さらに、自給飼料の地域間流通について「同じ県内でも場所によっては遠距離になるため、地域間の流通経費に対する助成が必要」との声もあった。
このほか、経営継続のための農業用機械の更新に対する畜産クラスター事業の継続、物価やコスト高騰に対する助成の実施などを求める意見が上がった。
会合ではまた、酪農ヘルパー全国協会の桑原芳彦専務が酪農ヘルパーをめぐる課題を説明。課題解決に向けて改めて理解・協力を呼びかけた。
「検疫強化へ各空港で広報活動展開」――全酪連
全酪連は10月1日に新千歳空港、7~8月にも仙台国際空港(宮城県)と中部国際空港(愛知県)で動物検疫広報キャンペーンを行った。アジアをはじめ世界各国で悪性な家畜伝染病が発生・拡大しているなか、今年3月には韓国で口蹄疫が発生するなど、水際検疫の徹底強化が一層重要になっている。今月末には全国の酪農家が一堂に会する北海道全共が開催されることもあり、全酪連としても動物検疫所のキャンペーンと連携し、水際検疫への理解や協力を呼びかけた。
「水際対策の重要性周知」
新千歳空港・全酪連札幌支所
全酪連札幌支所は10月1日、北海道の新千歳空港で動物検疫広報キャンペーンを動物検疫所等と実施。キャンペーンでは、広報用ポケットティッシュの配布等を通じて、肉製品等の国内への持ち込み禁止とともに、海外旅客者へ水際対策の重要性を訴えた。
広報キャンペーンは、新千歳空港国際線ターミナルビル3階の出発ロビーで実施。動物検疫所北海道・東北支所職員や植物防疫所職員をはじめ、北海道庁畜産振興課、家畜保健衛生所、北海道ホルスタイン農協、北海道酪農協会、全酪連札幌支所など多くの関係者が協力。動物検疫所公式キャラクターの「クンくん」、植物防疫所公式キャラクターの「ぴーきゅん」も参加し、キャンペーンを盛り上げた。
新千歳空港では現在、約30名の家畜防疫官と数頭の検疫探知犬が防疫業務に従事し、北海道の玄関口として、家畜伝染病の侵入を防いでいる。2024年の同空港における出入国者数(国際線乗降客数、出入国管理統計)は353万2062人。他地域の空港では日本人の出入国数も一定程度ある一方、新千歳空港はそのほとんどが外国人旅客。海外からの北海道人気は非常に高い。
訪日外客数は、新型コロナ禍で一時的に大きく落ち込んだものの、年々増加傾向で推移。日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2024年(1~12月)の訪日外客数は3687万148人。25年になってからも毎月、前年同月を大きく上回り単月でも過去最高を更新し続けており、1~8月時点で既に計2838万3600人が日本を訪れている。
訪日外客数の増加は経済効果の側面での有益性は大きい一方で、家畜伝染病の侵入リスク増加も懸念される。動物検疫所では例年、人や物の動きが活発になる年末年始や2月頃の中国の春節の時期、5月の大型連休時などに合わせて広報キャンペーンを展開。現在は中国の中秋節を前に各地で防疫体制を強化中。
空港における水際対策について、動物検疫所北海道・東北支所は「海外ではアフリカ豚熱や口蹄疫など、特にアジア地域において重大な影響を及ぼす家畜伝染病の発生が続いている。動物検疫所が水際で禁止された肉製品の持ち込みの検査、靴底消毒をしっかり行うことでそういった伝染病の侵入を防いでいきたい」と述べるとともに、海外から帰国する際には肉製品を持ち込まないよう呼びかけた。
取り組みの重要性について全酪連札幌支所は「家畜伝染病に対する防疫は酪農の全国専門団体として常日頃意識している。今回の広報キャンペーンは水際対策における重要な活動の一つと捉え、農水省動物検疫所のご指導の元、関係各所・団体と共に実施した。国内随一の酪農大国且つ全共の開催も予定されている北海道においては、まずは感染源を道内に入れない為に、様々な水際対策の積み重ねが肝要だと思っている」と話した。

新千歳空港の国際線利用客へPR

新千歳空港の靴底消毒エリア。感染症や家畜伝染病等も啓発(動物検疫所北海道・東北支所提供)
仙台国際空港・全酪連仙台支所
7月29日に空港2階出発ロビーで活動を実施。北海道・東北支所や仙台空港出張所、宮城県農政部家畜防疫対策室衛生安全班の関係者、宮城県の組合や全酪連仙台支所の職員が参加した。
新千歳空港と同様に、広報用のポケットティッシュ、のぼりや啓発ポスター等を設置。このほか畜産物等の持ち込み禁止をPRするビラも配布した。仙台支所は「人の往来はコロナ禍以前の様相となり、多くの人が海外から帰国・入国している状況。家畜伝染病等の予防の取り組みが必要で、水際対策の周知がとても重要だ」としている。

仙台国際空港で動物検疫広報キャンペーンを実施した皆さん
中部国際空港・全酪連名古屋支所
8月7日に中部国際空港の利用者が往来するアクセスプラザにおいて実施。動物検疫所中部空港支所の職員、東海酪連、愛知県酪協、三重県酪農協、岐阜県酪連、全酪連名古屋支所の役職員、行政など多数の関係者が参加した。 新千歳空港や仙台国際空港と同じように広報用のポケットティッシュ配布等を通じ、水際対策の重要性を伝えた。今回の取り組みについて名古屋支所は「家畜伝染病はいつ身近に発生してもおかしくないが、今回の活動は、自分を含めて参加した関係者の水際対策への理解醸成、危機意識の高揚に繋がったと思う」としている。

荷物を調べる探知犬(中部国際空港)









