全国酪農協会からのお知らせ
全国酪農協会による「酪農危機打開のための緊急提言」の内容―所得補償のための経営安定制度の法制化などの抜本対策を政府・与党などに要請へ
一般社団法人全国酪農協会(馬瀬口弘志会長)は7月24日、東京・代々木の酪農会館で記者会見を開き、自給飼料生産を振興するための農地直接支払制度の導入と酪農所得補償のための経営所得安定制度の法制化(創設)を柱とする「日本酪農の危機打開のための緊急提言」を発表した。現状のままでは酪農経営が存続できなくなるとの危機感から政府や生産者団体等に抜本的な対策を求めたもの。今後、酪農関係団体と連携しながら来年度以降の政策・予算に反映されるよう、政府・与党に働きかける。
本提言はホームページで閲覧可能(第1次・第2次提言も掲載)です。印刷もできます。
酪農経営環境は長びく輸入飼料価格高騰等で戸数の減少と生乳生産量の減少に歯止めがかからず危機感が強まっている。提言作りの議論では、地域によっては、今後、生乳生産が大幅に減少するとの予測が示されるなど、家族経営を中心にした経営が持続できる制度・政策の確立が早急に必要との認識で一致した。
今回の提言は、過去2回の同協会の政策提言(本ホームページに掲載)を基に同協会などで構成する酪農研究会酪農政策ワーキングチーム(WT、座長=小林信一日本大学生物資源科学部教授)で3月から9回の会合を重ねとりまとめた。
記者会見で馬瀬口会長は「まず、この提言はTPPに加入するための条件提示を意図したものではないことを強調したい。TPP以前の問題として、このままでは日本の酪農が崩壊するという危機感から、全酪協会として提言をまとめた。提言を作ることが目的ではなく、議論の起点として、提言の項目がそれぞれ実現するよう、全酪協会として政府・与党に働きかける。酪農を取り巻く諸団体と、団体の垣根を越えて議論を広めたい」と意欲を述べた。
提言の柱である「酪農所得補償のための経営安定所得制度の法制化」について小林教授は、現行の加工原料乳補給金制度が「(制度改正後は)コストが上がっても、カバーできない仕組みになってしまい、酪農家の再生産が確保されていない。それが今の酪農経営の苦境をもたらしている」と指摘する。
このため、現行制度を補完するセーフティネットとして、肉用牛肥育経営安定特別対策(新マルキン)事業を参考に、家族労働費部分のマイナスを地域ごとの算定に基づき補償する酪農経営安定基金の創設を提案した。基金は酪農家と国の拠出によるもので、酪農家の参加は任意とする。本制度化の先には配合飼料基金を畜種別経営安定基金へ統合することも提案している。
小林教授は「所得補償はいわば『岩盤対策』となるもの。家族労働費と物財費をカバーする肉牛の新マルキンのイメージだ。地域ごとに経営状況が異なるので発動基準は県あるいはブロック単位に算定、地域ごとの補償を行う。全国的に酪農家が存在することが重要」と説明している。
例えば、農水省の畜産物生産費調査(2011年度)によると、都府県の酪農家の家族労働費は約600万円(1人・1時間当たり家族労働費1523円、平均従事者数2.4人、年間家族労働時間約4千時間)で、地域毎に算出した家族労働費を下回った部分の10割を補てんすることを提案している。
提言のもう一つの柱である「農地を荒廃から守り、自給飼料生産を振興するための農地直接支払制度の導入」は、多面的機能に対する直接支払の導入を酪農家支援の基本に位置づけることを求めている。具体的には、農地の維持や耕作放棄地の再生には畜産的利用が最適として、水田と畑地に対する助成(支払単価)の格差を小さくすることを求めた。直接支払の対象に草地を加えることも要望していく。
小林教授は「国の政策はコメが中心となっているが、そこに畜産的利用を組み合わせる。飼料米の取り組み等は評価するが、ややもすると、稲作農家の論理で行われており、実需者である畜産側に立った制度に変えていってほしいという思いがある」と説明している。
提言では、このほか、酪農経営所得安定制度への配合飼料基金の統合や生産者主導による余乳処理体制の構築なども盛り込んだ。
このうち配合飼料対策について、WTの提言では酪農家の物財費上昇は、酪農経営所得安定制度で手当てできるとの考え方になっている。小林教授は「飼料に補てんするよりも、酪農家の所得を支えるように変える。酪農経営所得安定制度は酪農家の所得部分を補償してほしいという提案であり、そこが補償されれば飼料価格がある程度高くなっても、酪農家にとって重要な所得が確保されることになる」と説明している。
▽全国酪農協会の酪農政策ワーキングチーム委員名簿(敬称略)小林信一(座長・日本大学教授)、谷口信和(東京農大教授)、鈴木宣弘(東大大学院教授)、並木健二(中酪参与)、神山安雄(農政ジャーナリスト)、森剛一(税理士・酪農コンサルタント)、馬瀬口弘志(全酪協会会長)、今関輝章(同常務)、三国貢(同理事・事務局長)。