ニュースと話題/2014年6月
自民党酪政会に酪政連が要請―「酪農生産基盤強化へ所得対策を」
自民党酪政会(森英介会長)は5月22日、党本部で総会を開き、酪農生産現場の状況について、酪政連から意見を聞いた。酪政連からは、TPP等国際交渉に際して日本として強い姿勢で臨むことや酪農家の所得を確保する政策の実現などを要請した。総会には酪政連委員ら酪農関係者50名が集まった。
5月19~20日のシンガポールTPP閣僚会合で政府・与党との意見交換や情報収集のため現地で活動した酪政連の佐々木勲委員長は「1㍉、1㌢も譲らない覚悟で交渉に臨むように酪政連としても応援をしてきた。心を一つにして頑張ってほしい」と政府の粘り強い交渉を求めた。
その上で佐々木委員長は「酪農の生産基盤強化のため、つまりは儲かる酪農経営像を目指して、日本型酪農政策の早期実現を要請する」と中長期的な経営安定対策の実現を求めた。
国会議員との意見交換の中で、葉梨康弘財務大臣政務官(茨城県)は「TPPに関係なく酪農の国内対策は進めなければならない。特に都府県の離農の実態は大変だ。いつまでも加工原料乳補給金をめぐる算数ばかりしていてもしょうがない」と延べ、抜本的な所得対策の必要性を示唆した。
加えて葉梨政務官は、自給飼料の確保が難しい都府県酪農では、輸入乾牧草に頼らざるを得ない構造となっていることにふれ「輸入乾牧草の給与と乳量の関係を資料で示してほしい」と農水省の対応を求めた。
これを受けて農水省の原田英男畜産部長は「特に都府県で輸入乾牧草が恒常的に使われるのは、夏場の暑熱で乳脂率が低下する面が強い」との見方を説明。さらに葉梨政務官が「稲ワラの流通体系が弱い」と指摘するなど、都府県における粗飼料流通と利用の実態把握を促した。
出席した酪政連委員のうち木本栄一委員(埼玉県)は、今年度畜産・酪農関連対策で措置された経産牛1頭あたり6100円を助成する「都府県酪農経営国産粗飼料利用体制強化事業」について、都市近郊の酪農経営が事業参加し難いことから「都府県全ての酪農家に行き渡るものではなかったのか」と指摘。小林博行畜産振興課長は「知事特認で知恵をしぼりたい」と応じた。
柴田輝男氏(秋田県)は「業界の大事なデータとして活用される牛群検定事業について、県の交付金で予算を削られないやり方をお願いする」と要請。また、酪農家側が良質な稲WCSを利用できる仕組みの検討を求めた。
安藤康宣氏(大分県)は「まさしく展望が見えない状況。目の前の対策と中長期的で安定した対策が必要」と訴え、「例えば都府県でも土地利用に10㌃あたり1~2万円の補助金があれば、かなりの酪農家が粗飼料を作り安定的に経営できる」と提案した。
原田部長は「土地利用は酪農に限らず農業では当然の営農行為であり、どこまで国で手伝えるか考えたい。意欲あって元気ある畜産経営ができるよう整理したい」と述べた。
「自民党・東北酪政会が活動を再開」―会長に鈴木俊一氏(衆・岩手2区)が就任
東北ブロック選出で酪農に関心の高い国会議員が集まる「自民党東北酪政会」の活動再開が正式に決まった。5月22日、自民党本部で開いた酪政連東北ブロック協議会(佐々木勲会長)の緊急集会の中で承認された。東北酪政会の新会長には鈴木俊一衆議(岩手2区)が選任され、その他役員は会長一任とした。
自民党東北酪政会は、当時会長を務めていた元衆議・二田孝治氏(現全国農業会議所会長)が09年7月の衆院選挙での落選により活動が休止状態となっていた。およそ5年ぶりとなる活動再開は、集会の中で、東北各県から選出された衆・参院議員15名の出席のもと承認された。
鈴木衆議は新会長就任にあたり「二田前会長の後を継ぎ頑張っていく。全国組織である日本酪政連ともよく連携しながら、東北の酪農が元気よく再生産できる体制のために力をあわせていきたい」と抱負を述べ、東北ブロック選出議員の結束を呼びかけた。
また、同協議会の事務局長を務める大島理森衆議(青森3区、前自民党副総裁)は「後継者不足による生乳供給不足という切実な話がある。我々の地域は東日本大震災という大きな宿題を背負っている仲間でもある。東北一つという思いで頑張っていこうではないか」と述べた。
このほか、集会で挨拶した二田前会長は「色々な段階で手間をとり(活動再開が)今日になったことをお詫びする。この会には政治家にミルクをたくさん飲んでもらい、力をつけてもらう主旨もある。日本をどうか良き方向に導いてほしい」と東北酪政会の今後の活動への期待を述べた。
一方、酪政連東北ブロック協議会の佐々木会長は「酪農情勢は大変厳しい中にある。酪農産業を次の世代に託すためにも、生産現場と国会が一緒となり、ここで大転換をしなければ」と訴えた。
集会では鈴木新会長の進行で、酪政連東北ブロック協議会との意見交換を実施。出席議員からは、東日本大震災・原発事故の影響が今なお残る東北酪農の苦しい実態や、食品の風評被害、中山間地域での農地保全などの課題に理解が示された。
東北酪政連側からは堀田良彰委員(山形県酪農協専務)は「日本の酪農は現在、ヒト・牛・組織とも力が弱っている。生産現場としても課題解決に取り組もうとしているところ」、佐藤金正委員(日本酪政連福島県支部連合会会長)は「来春に出される新たな酪肉近(酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針)で、国がどのように酪農を持続していくのか指針をしっかり作ってもらうのが最大の論点」などと要望した。
「酪農と乳業が一体の産業として課題の解決を」―日本乳業協会の川村和夫新会長があいさつ
日本乳業協会は5月16日、東京都内で開催した14年度定時総会で川村和夫氏(明治社長)を新会長に選任したが、川村会長は総会後の懇親会であいさつ。「日本経済はアベノミクスで回復基調にあるが、乳業界は様相を異にしている。輸入原料コスト上昇、乳価引き上げ等、乳業経営は非常に厳しい状況」と述べ、乳業経営が厳しい環境にあるとの認識を示した。また、今後の見通しについても「生乳生産回復の遅れなどから、適正在庫を確保できた昨年から一転して、需給ひっ迫が避けられないと予測されている」として、需給環境への危機感をあらわにした。
その上で乳業・酪農の関係ついて「かねてより車の両輪と言われ、欠くことのできないパートナーとして歩んできたが、近年になって、酪農と乳業は一体の産業であり、抱えている課題も共通と強く感じている。今、問題になっている酪農生産基盤の弱体化は、乳業の存立基盤の弱体化に直結している。酪農と乳業が一体の産業として課題を共有し、解決に取り組む段階に来ている。一体の産業と言う視点で突破口を見出す努力をしたい」と述べた。
雪印メグミルクが次期中期計画を1年前倒し、競争激化・コスト上昇で―2014~16年度、事業構造改革へ
雪印メグミルクは5月13日、2014年度3月期決算説明の中で次期中期計画を1年前倒して実施すると発表した。急激なコストアップにより営業利益が低下した状況を受け、持続的成長を可能とする収益基盤を確保するため、事業構造の改革や成長分野への重点的な投資などを戦略の柱とし、2016年度の営業利益は150億円を目指す。
牛乳・乳製品市場の競争激化に伴い、売上高が伸びなかったことに加え、円安の進行による急激なコスト上昇により、営業利益は低下。2010~12年度の連結営業利益は150億円以上あったが、2013年度は112億円、2014年度の業績予想では、100億円まで低下する。
さらに、国内外の乳資源需給がひっ迫し、今後もコストアップが継続すると見込まれているため、環境変化を踏まえた14~16年度の3カ年を計画期間とする新しい中期計画を策定。中野吉晴社長は「収益が悪化する14年度をボトムとし、急激なコストアップ前の水準である営業利益150億円を目指す」と抱負を述べた。
戦略の柱は①事業構造改革②戦略投資設備の最大活用③成長分野への事業拡大④機能強化と体制整備――の4つで、中野社長は「事業構造改革と戦略投資設備の最大活用が大きな柱」と述べた。
また、事業構造改革について中野社長は「飲料・デザート類を中心に考えている」とした上で「市乳部門は収益的に脆弱な構造にある。そこにコストアップ要因が加わり、13年度は実質赤字に転落した。生産ライン、アイテムを集約し、付加価値のある製品にシフトする必要がある。大胆に取り組まなければ構造は変わらない」と説明した。
戦略投資設備の最大活用については、乳製品の阿見工場(茨城県)、市乳の海老名工場(神奈川県)、さけるチーズの大樹工場(北海道)を安定的に稼働させ、生産性の向上により利益の拡大を図る。
カテゴリー№1戦略は引き続き推進。乳飲料(3月時点のシェア約21%、2位)、ヨーグルト(同約11%、3位)、ナチュラルチーズ(同約21%、1位)、プロセスチーズ(同約20%、2位)の4つを重点カテゴリーに位置づける。中野社長は「特に、プロセスチーズは収益基盤」と述べ、経営資源を集中的に投下する考えを示した。