ニュースと話題/2013年6月
「枝肉相場、乳用種B2規格が堅調、原発事故以前の水準超える」―酪農生産基盤の脆弱化が影響か
乳用種去勢牛の枝肉卸売価格が堅調だ。とりわけB2規格は、原発事故にともなう牛肉の放射性物質汚染問題発生以前の水準を上回って推移。B3規格もほぼ同水準にまで回復してきた。
戸数・飼養頭数ともに、年々減り続く酪農基盤の脆弱性がその背景にはありそうだ。酪農戸数の減少に歯止めがかかる兆しはなく、わが国がTPP(環太平洋連携協定)に参加すれば、さらに拍車がかかることは間違いない。必然的に、交雑種も含めた乳用種由来肥育素畜の供給力も減り続くことになる。
4月の大阪市場の乳用種去勢単価は、B3が前年同月対比151.5%の827円、B2が同146.1%の751円と、前月に続き大きく上昇した。東京市場F1去勢単価もB3が同107.4%の1190円、B2が同112.5%の1092円と、どちらも引き続き前年同月を上回った。
アベノミクスの効果はいまだ消費者に及んでいないのか、牛肉需要はスソ物中心に推移している。黒毛和牛でも去勢A5の単価は2100円台にようやく回復する一方、A3中心に下位規格に需要が集まっている。
5月に入っても、例年なら大型連休後は下げに転じる枝肉相場だが、今年は様相が異なり、A5の高級規格を除き一段高の展開となっている。
一方、4月の交雑種および乳用種素畜価格は、どちらも前年同月に比べ大きく上昇。北海道主要市場平均のF1雄スモール価格は、前年同月対比128.5%の15万9359円、乳雄スモールは同146.7%の5万6580円と、それぞれ枝肉相場と同様の大幅上昇となった。
今後の枝肉相場の動向を見通すと、供給面では依然タイトな状況が続きそうだ。独立行政法人家畜改良センターが公表している個体識別情報データによると、乳用種・交雑種飼養頭数は、両者とも依然減少傾向にある。06年からの7年間で、前者は16.5%、後者は14.7%それぞれ減少している。
一方、需要面では、景気の浮揚が期待されるアベノミクスだが、今月予定されている成長戦略の発表をまたず、雲行きが怪しくなってきた。昨年末の安部政権発足と同時に上昇し始めた日経平均株価は、景気回復の期待を載せて一本調子で上げ続けたものの、つい先月の5月23日には1100円を越す大幅な下落となり、その後も一進一退の相場展開を見せ(5月27日現在)経済勢の先行きに混乱をもたらしている。
これまでの株価上昇にもかかわらず、雇用者の給料にはその恩恵はもたらされていない。厚労省公表の「毎月勤労統計(速報)」では、3月の1人当たり現金給与総額は、前年同月対比0.6%のマイナスだった。サラリーマンの給料は上昇どころかマイナスで、先行き経済不安が増大するとなれば、財布の紐が固く結ばれるのは自明の理。低規格志向の動きは強まりそうだ。
ただ、新たな懸念材料が出現しそうだ。日豪経済連携協定(EPA)締結に向けた交渉がいよいよ大詰めの段階との、気になる報道がある。豪州の自動車関税5%を段階的に下げる一方、わが国の牛肉関税の一部を38.5%から30%に引き下げるのが柱という。
輸入牛肉の月齢制限が緩和されたものの、現地牛肉価格の高騰と為替の円安で、輸入量は前年比マイナスが続いている中、報道が事実なら、国産牛肉相場に新たな懸念材料といえる。
「当面の生乳需給の不安は払しょく」―日本乳業協会の定時社員総会で中野吉晴会長があいさつ
一般社団法人日本乳業協会の中野吉晴会長(雪印メグミルク社長)は、最近の酪農・乳業をめぐる最近の情勢について「生乳の増産、バター2千㌧の追加輸入、脱粉のカレントアクセス(CA)による前倒し対応等、安定供給に資する取り組みにより、当面の需給不安は払拭された。需要面では、はっ酵乳生産量が過去最高となり、チーズの需要量が30万㌧の大台に乗るなど明るい話題があった。一方、急激な円安の進行、配合飼料や輸入乾牧草の価格高騰等が酪農乳業の経営に大きな影響を与えている」と5月17日に東京都内で開いた同協会の定時社員総会の冒頭あいさつの中で言及した。
また、TPP交渉について「参加表明が酪農・乳業の将来に大きな影を落としている。経済連携と農業・農村振興をどう両立するのか。酪農・乳業が将来展望を描くことができるビジョン等が十分に示されていない中での交渉参加が、将来への不安を一層拡大している」と述べ、参加に向けた政府の姿勢に懸念を示した。
日本乳業協会は今年度事業の重点項目として、①品質・安全性向上による消費者の安心・信頼の確保②牛乳・乳製品の普及啓発と需給均衡③国際化進展への対応④環境リサイクル対策の推進⑤乳業事業の改善と合理化の推進――の5項目をあげている。
このほか、10月末から横浜市で開催されるワールドデイリーサミット2013にも出展し、日本の乳業の食育の取り組み、環境対応などを紹介することにしている。
酪農理解醸成活動、大震災の被災地で出前授業などを重点事業に―地域交流牧場全国連絡会、新会長に広野正則氏(香川県)を選任
地域交流牧場全国連絡会(交牧連、事務局=中央酪農会議)は5月23日、東京都内で13年度代議員会を開き、12年度活動報告、13年度活動計画など原案通り承認した。酪農理解醸成活動の推進や牛乳・乳製品消費拡大を推進していく方針を決めた。加えて昨年に引き続き、東北ブロックを中心として小学校などへの出前授業等を通じて、東日本大震災の被災地を支援する。
また、任期満了に伴う役員改選では、新会長に広野正則さん(香川県・広野牧場)が選任された。今年4月1日現在の会員数は300名(前年度比15名減)。
開会に先立ち藤田毅会長(新潟県・フジタファーム)は「急激に円安が進み、飼料価格の高騰で先が見えない。そのような中でTPP参加表明となり、非常に危機感を感じている」と最近の厳しい酪農情勢に対し懸念を述べた。
来賓の農水省牛乳乳製品課の本田光広課長補佐は「飼料価格の高騰など厳しい状況が続くが、関連対策や補助付きリース事業などを活用し、13年度も引き続き頑張っていただきたい」と述べた。
交牧連は一昨年に続き昨年度も同様に東日本大震災の被災地への支援を行った。いずれも9月に大震災による被害を受けた岩手県・陸前高田市立長部小学校と宮城県・石巻市立橋浦小学校でわくわくモーモースクールを開催。東北ブロックでも独自に岩手県・大船渡市立綾里小学校で開いた。
役員改選で会長に就任した広野新会長は「今まで交牧連が行ってきた実績を踏まえ、13年度も活動計画に従って進めていきたい。東北支援については、続けていく必要がある」と全国の交牧連会員に協力を要請した。
13年度活動計画は、酪農理解醸成活動、牛乳・乳製品消費活動推進とともに、被災地支援を昨年に引き続き重点課題とし、消費者交流活動では12年度に作成した防疫サインを活用して、消費者に対して防疫上のリスクが生じないよう必要な情報を発信する。
また、従来通り中酪の「MILK JAPAN」運動に対し積極的に協力する。今年度の全国研修会の開催は、ワールドデイリーサミット(WDS)の開催に合わせ、10月に開催予定。交牧連として、WDSに他団体との連携等を含めた出展についても検討する。
杉本治一郎氏(新潟市)の黄綬褒章の受章を祝う―全国酪農協会など酪農関係10団体
春の褒章で黄綬褒章を受章した新潟市の杉本治一郎氏(74歳。新潟県家畜人工授精師協会会長、元横越町酪農組合長)の褒章祝賀会が5月16日、東京都内で全国酪農協会、全酪連など酪農関係10団体により開かれた。
杉本氏は早くから繁殖の重要性に着目、家畜人工授精師の資格を取り、地域の分娩間隔短縮に貢献。また、昭和50年代には、当時組合の平均1頭当たり5千㌔だった年間乳量を8千㌔とする目標を掲げ、組合の全ての酪農家が10年以内で目標を達成した。
主催者を代表して全酪連の砂金甚太郎会長は「卓越した指導力を以って新潟県の酪農を大いに発展させた。全国の酪農家に大きな希望を与えた」と祝辞を述べ、来賓出席した農水省の菅家秀人牛乳乳製品課長は「常に先を読みながら先駆的な取り組みをなされ、現役で地域のリーダーとして活躍されている」と功績を讃えた。
杉本氏は「大勢の皆さんにお支え頂き、今日受章できた」と謝辞を述べた。