全酪新報/2024年1月1日号
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「2024年度農林水産省予算、総額2兆2686億円」――食料安定供給に必要な支援引き続き確保
政府は12月22日、前年度並み、3億円増の総額2兆2686億円とする2024年度農林水産関係予算を閣議決定した。このうち酪農経営安定対策に31億1200万円増の436億9600万円、食料の安定供給に向けた構造転換対策として、国産飼料の生産・利用拡大を後押しする飼料増産・安定供給対策に18億円を計上。今年度予算で措置した必要な支援策等を引き続き確保した。-詳細は全酪新報にてご覧ください-
お断り=本記事は1月1日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「2024年度畜産・酪農関連対策、地域の酪農基盤維持強化へ」――飼養環境改善対策など
このほど決定した2024年度の畜産・酪農関連対策(ALIC事業)では、「酪農経営支援総合対策事業」(45億6600万円、今年度同額)を引き続き措置。つなぎ牛舎の改良など後継牛確保のための環境整備、暑熱対策や酪農ヘルパーの確保・育成への支援など、地域の酪農基盤の維持強化に向けて必要な対策を講じた。今年度実施していた酪農緊急パワーアップ事業の一部メニューを組み込んだこと以外、今年度と大きな変更はない。
同事業では、①中小酪農生産基盤・飼養環境の改善対策②地域の生産体制の強化対策③酪農ヘルパー対策④生乳の流通合理化対策⑤乳用牛の能力向上対策――等を引き続き措置した。
このうち①では、カーフハッチや分娩カメラ等機器の導入、牛床の延長等つなぎ牛舎の改良など後継牛確保のための環境整備、牛床マットや細霧装置導入等を支援する。なお、2023年度関連対策の酪農緊急パワーアップ事業において、搾乳ロボット等の先進的機器導入と一体的な施設整備を支援する旧楽酪GO事業のメニューは、同対策の中に組み込む。一方、乳用牛への和牛受精卵移植を支援していたメニューは対策から外した。
また、②で講じる地域の生産体制の強化対策では、新規就農希望者を対象とした経営離脱農家等を研修施設に活用した技術・経営ノウハウ習得のための研修、担い手のための経営マネジメント研修等を支援するメニューを引き続き措置。後継牛の広域預託(上限1頭当たり3万1千円)や預託牧場における放牧用資機材の整備なども後押しする。
このほか酪農ヘルパー対策では、生産者の傷病時利用の際にかかる負担軽減を図るほか、ヘルパーを目指す学生への修学支援、学生インターンシップの受入れなどを支援する。
「第2回畜産部会、今後の酪農政策等めぐり意見」――国産飼料利用拡大へ支援を、長期的な酪農乳業の在り方検討すべき
農水省は12月13日、省内で第2回畜産部会を開催。委員がそれぞれ今後の酪農政策等をめぐり意見を挙げる中で、生産者の委員からは酪農の理解醸成に向けた環境整備を求める声や、国産飼料の増産を図るとともに、土地制約上飼料生産が厳しい地域においても国産飼料を積極的に利用できる支援策が必要との指摘があった。一方で乳業者の委員からは、25年に見直しが予定される次期酪肉近のその先も見据えた、長期的な酪農乳業の在り方について検討を進めるべきとの意見が上がった。
このうち北海道広尾町の酪農家、椛木円佳委員(㈱マドリン代表)は「消費者の中にはバターが足りないなら生乳を搾って作ればいいと考える人も多い。しかし、生産抑制や猛暑の影響で計画通りに搾れないなど、今の酪農家の生産状況はあまり良くない。(脱粉とバターの需給の跛行性に加え)生・処・官での脱粉在庫削減対策の実施など我々が努力していることなど、酪農のことを分かっている消費者は少ないと思う。理解醸成に向けた環境を上手く作っていく必要がある」と話した。
また、神奈川県伊勢原市の酪農家、石田陽一委員(㈱石田牧場代表)は国産飼料の生産拡大を図っていく重要性を強調した上で「神奈川、千葉、埼玉のような都市近郊では、粗飼料の自給はなかなか難しい。輸入粗飼料の選択が当たり前の価値観だった都市近郊の酪農家に対しても国産飼料を行き渡らせ、選択肢として選べるような対策をお願いしたい」と要望した。
また、乳業者を代表して松田克也委員(日本乳業協会会長)は書面で意見を提示。「この先中長期的に人口減少が予測される中、生乳生産や酪農経営の長期的な安定、さらに乳原料の調達を含めた食料安全保障のためには、酪肉近の目標年度よりもっと先の次世代を見据えた長期的な酪農乳業の在り方について検討する必要がある。その際は、酪肉近とはやや異なる視点から、次世代に至る道筋を含め、官民が連携・協力して検討を進めてはどうか」との考えを示した。
「全酪連、配合飼料1~3月期1㌧2800円値上げ」――海上運賃や円安が影響
全酪連は12月20日、2024年1~3月期の牛用配合飼料価格を前期(10~12月)価格から1㌧当たり2800円値上げすると発表した。前期に比べて海上運賃の上昇や為替の円安等が影響した。値上げに転じるのは22年7~9月期以来6期ぶり。一方、哺育飼料価格は脱脂粉乳の相場が軟調に推移していることから、1㌧当たり3万円値下げとなった。
飼料情勢をみると、トウモロコシのシカゴ相場は10月に490㌣/㌴まで上昇していたが、米国産地での収穫が順調に進んだことなどから軟調な推移となり、12月現在は480㌣/㌴ほどで推移。大豆粕の相場は、高温乾燥による南米産大豆の作柄悪化懸念等から500㌦/㌧を超える水準まで急騰したが、天候改善予報を受け12月現在は450㌦/㌧前後で推移している。
また、海上運賃は8月初旬には50㌦/㌧ほどだったが、干ばつによりパナマ運河の水位が低下。2月には例年の45%程度に運航数を制限するとパナマ運河庁が発表し運賃が高騰。現在60㌦/㌧で推移している。パナマは1~4月が乾季となるため、運河の水位改善は見込めず、海上運賃は堅調に推移する見込み。
配合飼料価格はこのほか、JA全農が19日に全国全畜種総平均1㌧当たり約2800円値上げを決定。ホクレンも同日、全畜種平均1㌧当たり約2950円値上げすると公表した。
「牧場で輝く家畜の命」連載㉜瀧見明花里さんの写真エッセイ
朝5時半。ツルツルの路面を走る車は、外気マイナス15度を示しています。一方、空気の澄んだ日の太陽は美しく、お空をピンク色に染めてくれました。牧場に到着すると、牛舎の中から外に出て様子を見にきてくれる牛さんたち。その中には、まだ小さかった頃に会ったことのある顔もチラホラ。
見覚えのあるレッドちゃんに挨拶をしていると、さっきまでピンク色だった朝陽がオレンジ色へと変身し、牛舎や牛たちの顔を照らし始めます。吐く息までもが橙色に染まる中、牛さんのお鼻の周りには、いつもより少し強調されたお髭がキラキラと輝いていました。
帰り道、木々に積もる雪までもが輝いているのを見て、冬の楽しみを目一杯感じた1日となりました。
それからあっという間に月日が過ぎ去り、本日新年を迎えました。明けましておめでとうございます。今年も世界のどこかの牛さんをお届けできればと思います。皆さまにとって素敵な1年でありますように。(全酪新報では毎月1日号に掲載しています)
プロフィール
瀧見明花里(AKAPPLE)
農業に触れるためニュージーランドへ1年3ヶ月渡航。2017年より独立。『「いただきます」を世界共通語へ』をコンセプトに、牛、豚、鶏をはじめとする家畜動物を撮影、発表。家畜の命について考えるきっかけを届けている。
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