全酪新報/2024年8月20日号
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「23年度、牛乳・乳製品自給率63%、前年度より1㌽上昇」――円安等の影響でチーズ輸入量減少が要因
農水省が8月8日に公表した2023年度の食料自給率のうち、牛乳・乳製品の食料自給率(重量ベース、飼料自給率は未反映)は63%で前年度より1㌽上昇した。昨年は記録的な猛暑や急速に進む離農等により生乳生産量が減少した一方、円安等の影響でチーズの輸入量が大きく減少したことなどを要因に、算出上ではわずかに前年度を上回った。-詳細は全酪新報にてご覧ください-
お断り=本記事は8月20日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「カロリーベースの食料自給率、3年連続38%」――横這い続く
2023年度におけるカロリーベースの食料自給率は、小麦の生産量増加や油脂類の消費量減少がプラス要因となった一方、てん菜の糖度低下による国産原料の製糖量減少がマイナス要因となり、前年度同の38%となった。政府は30年度までにカロリーベース食料自給率を45%とする目標を掲げているが、現状は3年連続で38%、2000年代に入ってからも概ね横這いでの推移が続いている。
なお、生産額ベースの食料自給率は、輸入された食料の量は前年と同程度だったものの、国際的な穀物価格や生産資材価格の水準が前年度より落ち着き、輸入総額が減少したこと等により3㌽上昇の61%となった。
農水省は今後、食料自給率を含む食料安全保障の確保に関する目標設定について議論する方針で、8日の記者会見で坂本哲志農相は「今夏から議論を開始する食料・農業・農村政策審議会での次期基本計画策定に向けた議論の中で検討を進めていく」との意向を示した。
「ファンへ牛乳の魅力発信、アイドルグループ高嶺のなでしこ」――中酪とのコラボ企画
10人組女性アイドルグループの「高嶺のなでしこ」は8月7日、都内で開いたファンミーティングの中で中央酪農会議とのコラボ企画を実施した。イベントでは、昨年10月より酪農応援アンバサダーとして中酪と展開中の「酪農応援プロジェクト」を今年度も引き続き実施していく方針が発表されるとともに、グループメンバーの酪農や牛乳への愛を競う企画を通じ、来場したファンに酪農や牛乳の魅力を伝えた。中酪の菊池淳志専務と酪農家の吉田恭寛さん(埼玉県小鹿野町)も登壇し、厳しい状況にある酪農への応援を呼びかけた。
ステージ企画のうち、「思わず買いたくなっちゃう!牛乳パッケージコンテスト」では、複数の牛乳パックを並べることでキャラクターの絵が完成するといった1回の購入で2本以上の購買意欲を促すデザインなど、数多くの個性豊かなデザインが提案された。このほか、牛乳を飲んで『美味い』のリアクションだけでその魅力や素晴らしさを表現する企画、酪農や牛乳・乳製品に関するクイズ大会も行われた。
イベントで菊池専務は「最近は酪農家戸数が減っていて非常に厳しい。だからこそ、メンバーの皆さんにはこれからも酪農や牛乳・乳製品を応援していただき、リードしてほしい」とアンバサダーとしての一層の活躍に期待を込めた。また、吉田さんは「今日も含め、メンバーの皆さんに応援していただいたことで、我々酪農家もこれからも頑張っていこうと思える」と高嶺のなでしこが行っている昨年からの応援に謝意を示した。メンバーからは「ココアとか、いろんな料理に牛乳を入れてもらって、楽しみながら使って欲しい」「これからもっともっとミルクをたくさん飲んで生きていきます!」といったメッセージを発信した。
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「国際酪農乳業情報レポート」――第10回
持続可能性推進するDSF② Jミルク
「多くが重要課題として認識、市場開発と農村経済も評価・報告」
デーリー・サステナビリティ・フレームワーク(DSF)は、独自の評価項目を用いて各国の会員が毎年報告するデータを集計して報告書として公表することで、世界の酪農乳業の持続可能性の取り組み状況を世界に発信する国際組織です。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」には17の目標があり、持続可能な開発を経済、社会及び環境という3つの側面において、バランスがとれ統合された形での達成を目指しています。
これらの3つの側面からみると、DSFの11の評価項目は、経済面は「市場開発」と「農村経済」の2項目、社会面は「家畜飼養」「製品の安全と品質」「労働条件」の3項目、環境面は「生物多様性」「温室効果ガス排出」「土壌養分」「土壌の質と保持力」「廃棄物」「水の可用性と水質」の6項目に分類されます。今回は、経済面のDSFの評価項目である、「市場開発」と「農村経済」について紹介します。
酪農乳業の生産物である牛乳・乳製品からみると、持続可能な市場や経済とは、酪農乳業の顧客である流通と消費者が、牛乳・乳製品の価値の源泉を栄養面、文化面、社会面などから理解し、合理性のある経済的な活動または負担によって、それらの価値を十分に享受できている市場や経済のことだと考えられます。
酪農乳業にとって持続可能な市場とは、売り手の酪農生産者と買い手の乳業者の間に信頼関係があり、適正な価格形成と生乳取引が行われ、需要の創出と生産基盤の維持・強化のために共同した取り組みが行われるような、強靭性と成長性のある成熟した市場ではないでしょうか。
また、酪農乳業にとって持続可能な経済とは、酪農生産者と乳業者の事業収支が健全であり、継続して反復した生産が常にできるような、再生産が確保された経済ではないでしょうか。これらの点については、酪農乳業界の関係者の皆様が、それぞれの立場から様々な問題意識をお持ちだと思います。
DSFの評価項目としての「市場開発」のねらいは、「酪農乳業バリューチェーンの関係者が透明で効果的な市場の開発を通じて、経済的に実行性のある事業を構築することができている」ことです。そして測定基準は、「あなたの組織は、生産者に市場の機会や課題を知らせるためのプロセスを設けているか?」とされており、会員は「はい・いいえ」でDSF事務局に報告します(表)。DSFの最新報告書によると、2022年にDSFに報告された生乳2610億㍑のうち、「市場開発」を重要課題として選択した会員からの生乳は約60%に相当し、これは11の評価項目のうち7番目で、すべて「はい」と回答されました。
次に、DSFの評価項目としての「農村経済」のねらいは、「酪農乳業セクターが酪農家と農村の強靭性と経済の活力に貢献している」ことです。そして測定基準は、「乳に対する農家への支払い総額。[年間販売生乳㌧数]×[年間平均乳価]として計算される」ことであり、「農村経済」を重要課題として選んだ会員は、DSF事務局に「生乳への対価として農家に支払われた総額を報告する(使用通貨を明記)」ことになります。
DSFの最新報告書によると、「農村経済」を重要課題として選択した会員からの生乳は、22年にDSFに報告された全ての生乳の約80%に相当し、11の評価項目のうち3番目で、総額778億5千万㌦となりました。この総額は一つの国で計算すれば、農業産出額としての生乳の産出額に相当し、酪農分野の経済規模がわかります。
DSF事務局では、会員による計画的な報告を支援するための情報を提供しています。DSFは13年に設立され、大学等との国際共同研究及び会員との協議を経て、18年に11の評価項目の設定を完了しました。そのうち7つの評価項目について、18年の会員からのデータを集計した初回報告書が20年に発表され、19年のデータ以降は11の評価項目全てについて年次報告書を公表しています。
DSFは活動計画を5年毎に策定しており、現行の20~25年活動計画に従って、会員向けの実行ガイドや評価項目の解説書を順次作成しており、持続可能性の取り組みへの活用方法を詳しく解説しています。23年に本部としての重要課題の見直しとして、会員との協議を行った結果、評価項目には変更が無いことを確認しました。
Jミルクは21年に、国内のデータをまとめて報告する統括会員としてDSFに加盟したことから、DSF事務局が主催する定例会議である開発グループ会議にも出席が求められています。DSFでは、25~30年の次期計画の策定を開始したところです。
日本国内では、ここ数年間で発生したコロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、為替の円安、物価高等の要因から飼料や資材・エネルギー価格が高騰し、農林水産省の調査では、酪農経営の農業経営収支において農業所得が22年にマイナスとなりました。22年と23年に乳価が引き上げられましたが、牛乳・乳製品の消費動向は引き続き注視が必要であり、新たな需要創出も必要です。
我が国の酪農乳業の発展のためには、様々な危機的状況が発生する中においても持続性の確保は重要であり、そのために国内の幅広い酪農乳業関係者に議論を深めていただくことが不可欠です。DSFの経済面の評価項目のねらいと測定基準が十分に理解され、国内の状況に合わせて利用されることが望まれます。