全酪新報/2024年10月10日号
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「生産意欲につながる施策を」と酪農家委員――酪肉近見直し・農林水産省畜産部会
今後の酪農政策の指針となる「酪肉近」見直しに向け検討を進めている農水省は10月4日、畜産部会を開き、酪農・乳業について議論した。酪農家の委員からは、生産意欲の喚起につながる施策・支援を求める声が出た一方、現行780万㌧の目標設定を維持すべきとの意見もあった。乳業者委員からは脱脂粉乳・バターの不均衡解消など生産者の意欲への配慮が必要との意見があった。-詳細は全酪新報にてご覧ください-
お断り=本記事は10月10日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「牛乳生産量は前年度並み、脱脂粉乳の在庫対策には需要創出・拡大が必要」――Jミルク・9月27日公表の24年度見通し
Jミルクが9月27日に公表した24年度需給見通しによると、全国の生乳生産量は前年度同の732万3千㌧の見込み。7月の見通しよりも6万3千㌧下方修正した。一方、牛乳生産量は前年度並みの予測で、価格改定以前の水準まで戻っていない。脱脂粉乳の期末在庫は、業界が協調して取り組んでいる在庫対策を加味しても13.0%増の5万4千㌧となる予測で、需要は低迷していることから引き続き在庫対策の着実な実行に取り組みつつ、需要の創出・拡大に努めていく必要がある。
生乳生産量の内訳は、北海道が0.9%増の421万3千㌧。昨夏の酷暑の影響で乳牛の受胎時期が遅れ、今年5月の分娩頭数は大きく減少。これらの影響から6~7月の生産量は下回ったものの、8月に入り若干暑さが和らぎ、分娩頭数は増加に転じて生乳生産量は回復傾向で推移。9月以降も概ね前年度を上回る見通し。
一方、都府県は1.2%減の311万㌧で下方修正。猛暑の影響から7~8月の生産量は減少し、以降の月も前年度を下回ると予測している。
他方で消費面においては、牛乳生産量が0.3%減の307万5千㌔㍑で前回7月より下方修正。このうち、家庭用は0.4%減の245万8千㌔㍑で、今後3月を除き前年並みもしくは前年割れの予測。その他、業務用は1.9%増の27万7千㌔㍑、学乳は1.0%減の33万9千㌔㍑。
このほか、乳飲料は4.7%減の101万1千㌔㍑、成分調整牛乳は9.3%減の21万1千㌔㍑と、ともに減少を予測。一方、加工乳は2.3%増の14万9千㌔㍑と引き続き前年を上回る見込みで、はっ酵乳は2.9%増の101万7千㌔㍑と予測している。
乳製品需給を見ると、脱粉の生産量は依然前年度を上回る一方、出回りは低調に推移する予測。今年度の期末在庫は、業界協調の在庫低減対策を加味しない場合、36.7%増の6万5300㌧を見込む。
一方、バターの生産量は前年度を上回る見通し。消費も堅調なことから需要が供給を上回り、期末在庫は12.9%減の2万1300㌧の予測。
「酪農対策、補正予算等確保へ一丸、総選挙へ支持呼びかけ」――自民党酪政会
自民党酪政会(森英介会長)は10月9日、東京・永田町の党本部で総会を開き、日本酪農政治連盟より酪農政策や予算確保に関する要望を聴取した。今年度の補正予算等の議論に向け、森会長は「依然として酪農では困難な状況が続いている。要請を受けて、政府全体でしっかりとした枠組みを確保できるように一丸となって頑張りたい」との姿勢を強調するとともに、10月27日投開票の総選挙への支持も呼びかけた。会合には酪政会所属議員49名(この他代理出席22名)が出席した。(右:森会長)
総会の冒頭、森会長は総選挙に関して「2009年の選挙で自民党が野党に代わってすぐの時に会長に就任した。2012年12月の総選挙で政権を奪還したが、その3年間、酪政連は野党だった自民党一本で支持してくれたことに本当に感謝している。大変困難な状況にある酪農の将来を切り拓くために頑張っていきたい」との意気込みを語った。
続いてあいさつした江藤拓幹事長も総選挙に向けて発信。「酪政会の先生方がこれまで必死に現場の声を聞き議論を重ねて財務省と交渉し、農水省とも意見を交わしてきた。この流れを決して途絶えさせてはならない。政権交代になれば間違いなく政治は停滞する。そのことを共有させていただき、どうぞこれからも我々に酪農政策を任せてほしい」と支持を呼びかけた。
総会では、農水省の松本平畜産局長が酪農をめぐる情勢について説明。その後、酪政連の柴田輝男委員長が来年度の酪農政策・予算確保に向け、生産資材価格の高騰に対する支援策、生乳の需給改善対策の継続、改正畜安法の運用改善への対応等を求めた。
要請を受け、議員からは、改正畜安法における系統外への対応、低迷している子牛価格への対策、鳥獣被害対策、消費拡大や自給飼料生産への一層の支援等を求める意見が上がった。
結びには、選挙に向けて宮本貞治郎副委員長が「酪農家戸数はまさに1万戸を切ろうとしているが、コロナ禍にもいただいた先生方の手厚い支援によりどうにか踏ん張っている。厳しい選挙を勝ち抜いていただき、再び永田町で先生方と再会できるよう願っている」と激励した。
「新農水大臣に小里泰弘氏が就任」――10月1日、石破内閣発足
10月1日に発足した石破内閣で、農相に小里泰弘氏(衆議・比例九州、66歳)が就任した。2日午前に就任会見に臨んだ小里農相は「農政は私にとってライフワーク。鹿児島県の中山間地の農業地帯で生まれ育ち、実家はもともと農業・林業で、子どもの頃から現場で勉強してきた。大変厳しい課題がある中、地域、現場の声を大事に、また国民の皆様の声もいただきながら、大事な農林水産業、そして食品産業をしっかりと未来へつなげていきたい」と意気込みを語った。(右:就任会見に臨む小里農相)
小里農相は、気候変動等による自然災害の多発、人口減少による需要の急減、高齢化により農業従事者が減少する一方で、担い手確保などが現状を取り巻く課題だと指摘。その上で「改正食料・農業・農村基本法に基づいた食料安全保障の確保や環境と調和のとれた食料システムの確立、農業の持続的発展に向けて農業者が将来を見通し、経営を続けていける環境を作っていきたい。また、輸入依存度の高い、いわば食料自給率の低い飼料作物などの品目について、しっかりと増産を図っていく」との考えを示した。
9月より策定に向けて議論を開始した新たな食料・農業・農村基本計画に関しては「今後の5年間の施策の方向性を定める極めて重要なもの。実効性がある計画として、何より生産現場にしっかり届くものとなるよう努めていく」と意欲を述べた。
また、農畜産物等の合理的な価格形成における仕組みの法制化、農林水産物の輸出促進、豚熱など家畜伝染病に対する対策等も重要な課題との認識を示した。
小里泰弘氏=環境副大臣兼内閣府副大臣、農林水産副大臣、内閣総理大臣補佐官(農山漁村地域活性化担当)等を歴任。自民党では、副幹事長、農林部会長、国土交通部会長、政務調査会副会長、経済成長戦略本部長、経済成長戦略委員長、総務会長代理などを務めた。
「Jミルク、改訂版戦略ビジョンを公表」――酪農乳業界が取り組むべき7項目の重要課題盛り込む
Jミルクは10月2日、酪農乳業のあるべき姿の方向性を示す「『改訂版・戦略ビジョン』~成長し、強固で、社会の要求に応えられる持続可能な酪農乳業を目指して」を公表した。2019年10月策定の「戦略ビジョン(提言)」を踏まえつつ、策定から現在までの環境変化も考慮した上で新たな視点として、酪農乳業界が今後取り組むべき7項目の重要課題を盛り込んだ。今後、関係者へ広く周知するとともに、重要課題ごとに目標設定や各種対応の検討・実施等に取り組む。
改訂に当たっては、新型コロナウイルス禍、ロシアのウクライナ侵攻、急激な円安など旧ビジョン策定後に起きた大きな環境変化を考慮。これらの影響による生乳需給の構造変動、生乳生産基盤の弱体化などの現状へ対応するため、業界関係者や有識者の意見も踏まえ、改訂に向けて検討していたもの。
改訂では、旧ビジョンにおける29の行動計画などの内容を踏まえつつ、これまで設定していた2030年度生乳生産目標(全国775~800万㌧)や国に要請すべき事項は削除。項目を大幅に絞る等により、関係者に分かりやすく、骨太な内容となるよう見直した。
今回盛り込んだ重要課題は、①日本の酪農乳業の根幹的課題への対応として「日本酪農の生産基盤の維持・強化」「安全で安心される良質な牛乳乳製品の安定的な提供」「牛乳乳製品の消費拡大」、②社会的要求への対応として「温室効果ガス排出量の削減」「労働者の安全と権利の確保」「アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理」の6つを整理。これに③見(魅)せる化として、「日本の酪農乳業の意義と持続可能な取り組みの見える化」を加えた計7つを、達成に向けて酪農乳業が今後対応すべき重要課題として推進する。
Jミルクの大貫陽一会長は改訂版の戦略ビジョンについて説明した2日の記者会見で、今回の改訂について「持続可能な産業を目指すための再スタートという位置づけの戦略ビジョンだ」と述べるとともに、ビジョンに関して広く周知していく姿勢を示した。
また、隈部洋副会長(全酪連会長)は「世界の酪農乳業界でも環境問題や人権問題、アニマルウェルフェア、栄養問題等の社会的な課題への具体的な取り組みを進めている。我が国だけが無関心でいることはできない」と述べた上で、今回の改訂で盛り込んだ7つの重要課題について、酪農乳業が一体となって推進に取り組む必要があると強調した。
Jミルク会議室で行われた発表記者会見