全酪新報/2024年3月20日号
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「春休み前に生乳消費拡大へ、継続的な消費喚起の取り組み必要」――業界挙げて生乳需給対策を
生乳需給が緩む春休みを前に、乳業メーカーや生産者団体等がイベントの開催など様々な形で消費拡大対策を講じている。一方、その後5月頃にかけては生乳生産量の増加が見込まれるものの消費は依然として低迷していることから、昨年に続き生乳の完全処理に向け関係者一体となった配乳調整等とともに、継続的な消費喚起の取り組みが求められている。-詳細は全酪新報にてご覧ください-
お断り=本記事は3月20日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「生乳需給の安定には需要に合わせた生産が重要」――農水省牛乳乳製品課・平田裕祐課長補佐
農水省牛乳乳製品課の平田裕祐課長補佐(生乳班)は、生乳需給の安定をめぐる課題について「急激な増産や減産は生産現場においても負担になる。需給の安定に向けては、いかに需要を見ながら安定的に生産していくかが重要だ」との考えを示した。全国酪農協会が3月8日、酪農共済取り扱い団体等向けに札幌市内で開いた2023年度北海道地区酪農講演会で述べたもの。(右:平田裕祐課長補佐)
生乳需給の安定に向け、平田課長補佐は、▽脱脂粉乳とバターの需要乖離▽需要を見ながらの安定的な生乳生産――の2点を課題として指摘した。脱粉・バターの需要乖離については、農水省としても脱粉を活用した新商品開発等を支援する「国産畜産物利用安定化対策事業」(23年度補正予算)等を通じ、需給ギャップの解消に向けた取り組みを後押しする一方、酪農乳業関係者において、今後も継続的な取り組みを積み上げていく必要があると強調した。
他方で、需要を見ながらの安定的な生乳生産に向けて、平田課長補佐は「計画的な乳用雌牛の確保が重要」と述べた上で、長命連産性の高い種雄牛の交配に対して1頭当たり1回最大9千円の奨励金(1頭当たり3回限度)を交付する「乳用牛長命連産性等向上緊急支援事業」(同補正予算)に言及。「長命連産性に優れた乳用雌牛群構成への転換を支援するものだが、無計画にホル雌を交配することは避けるべきだ。(事業を)どういう風に使うのか、どれぐらいの比率で使うのかを意識して上手く活用してほしい」と呼びかけた。
講演会ではこのほか、「世界の穀物需給と今後の見通し」と題して、㈱資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表による講演も行われた。
「広島県酪農協に農林水産大臣賞」――第10回全国自給飼料生産コンクール
日本草地畜産種子協会は3月14日、東京・竹橋のKKRホテル東京で第10回全国自給飼料生産コンクールの表彰式を開催し、管内の飼料供給と耕畜連携を支えている「みわTMRセンター」を運営する広島県酪農業協同組合(三次市、温泉川寛明組合長)が最優秀賞の農林水産大臣賞に選ばれた。
2014年から稼働している同TMRセンターでは、県内中山間地で生産したWCS用イネを原料にTMRを製造して酪農家に届けている。今回のコンクールにおいては、TMRセンターを拠点として、地域内の資源循環型酪農の基盤形成に貢献していることが評価された。
農林水産大臣賞を受けて、温泉川組合長は「『良質かつ安価なTMR』を供給し、生産者を支えることが組合の使命。当初20㌶だった集落営農法人とのWCS用イネの契約栽培面積も、少しずつ面積を増やし、現在は200㌶を超えるまでとなっている。今後もみわTMRセンターを通じ、地域の酪農を支えていきたい」と喜びを語った。
左から広島県酪農協の温泉川(ゆのかわ)組合長、竹ノ内寛治生産振興課課長補佐
「全国青年女性会議の活動や酪農家経営管理支援システムの活用を紹介」――全酪連だより・第2回
全国酪農業協同組合連合会(隈部洋会長)は、酪農専門の全国組織として、会員組織の運営指導のほか酪農家への情報提供や生産資材提供、牛乳・乳製品販売など様々な事業を通じて、酪農家に寄り添いながら日本酪農の発展・振興に尽くしている。本紙では全酪連の協力のもと、昨年9月より「全酪連だより」のコーナーを設け、全酪連の事業や取り組みを紹介している。
第2回目となる今号ではまず、全国酪農青年女性会議の中村俊介委員長や各地域会議の委員長に、酪青女活動の意義や酪農理解醸成の重要性等について話を聞いた。また、全酪連が酪農経営管理のためのツールとして提供している酪農家経営管理支援システム(DMSシステム)について、経営実態の把握や将来予測等の機能を通じて経営安定に大きく寄与していることなど、概要や活用のメリットを紹介する。
「後継牛確保へ対策急務、業界の持続発展の為に」――第3回
日本乳業協会 本郷秀毅常務理事
前回まで、2022年度から2年続いた生産抑制を背景に乳用種雌子牛の出生頭数が大きく減少したことや、その影響で25年度より乳量減少が顕在化する懸念について触れた。本号では、脱脂粉乳ベース需要とバターベース需要には大幅な格差がある一方、酪農乳業の維持発展には後継牛の安定的な確保が必要不可欠であることを改めて指摘するとともに、無脂乳固形分(チーズ等)での需要確保による生産維持の必要性について、日本乳業協会の本郷秀毅常務理事に解説いただく。
生産基盤維持のために①
「深刻な脱粉バター需要格差、無脂乳固形の需要確保必要」
安定的な後継牛確保の必要性
仮に、乳用種雌子牛の出生頭数の減少が継続して累積されていけば、生乳生産への影響はボディブローのように効いてきて、酪農乳業という産業のスタミナを奪っていくであろう。例えば、現在の生産量を750万㌧であると仮定すると、後継牛10%の減少が3年程度の期間を経て2歳以上の搾乳牛頭数に単純に反映されれば、75万㌧(10%)の生産減少となる。
もし、10%減少が継続して累積されれば、2年目の頭数は20%減となり、3年続けば30%減となる。生産過剰を生み出した2021年度の大幅といわれる生産拡大は、前年度比で3%の増産に過ぎないことを考えれば、10%減という数字の重さが理解いただけるであろう。とりわけ、後継牛の多くを北海道からの導入に頼っている都府県酪農にとっては、極めて深刻な問題となりかねない。
ただし現実には、その過程で需給や価格のシグナル等により、このような極端な生産減少は継続しないと思われるが、生産の回復には3年を要するため思惑や期待どおりにはならず、先行きは不透明であることに変わりはない。加えて、政策的な判断や計画・目標など、その他の要素も絡んでくるため、先行きを読むのは至難の業となる。
とはいえ、この極端な減少の勢いを止めなければ、数年後には再び増産が必要という状況になりかねない。生産が大きく振幅し、その都度対策を講じていては官民ともに疲弊する。したがって、酪農乳業の安定のためには、目先の利益のみに振り回されないような、後継牛の安定的な確保が必要不可欠であるといえよう。
需要の不均衡へ対応するには
ここで、需給に関連して、酪農乳業にとってもう一つの課題である脱脂粉乳ベースの需要とバターベースの需要の格差を確認してみたい。Jミルクの需給見通しは、ARIMAモデルによる予測値をベースに生産者と乳業者の意見等を反映して作成される業界共有の予測値であるため、1月末に公表された当該需給見通しを活用する。
それによると、2024年度のカレントアクセス(CA)込みの単年度需給ギャップは、脱粉ベースで3万2千㌧過剰(生乳換算で約38万㌧、製造係数により推計)、バターベースで2400㌧不足(同約6万㌧)なので、丸めると両者の間には約45万㌧の需要格差があることになる。
なお、参考までにCAを抜きにして純粋に国産品だけで試算すると、脱粉ベースでは生乳換算37万㌧過剰、バターベースでは同30万㌧不足となり、実際の両者の需要格差は約70万㌧ということになる。言い換えると、生乳生産量の約1割にも相当する需要のギャップが存在するということである。
昨年5月、新型コロナウイルス感染症が、感染症法上の2類から5類に移行され、インバウンドを含む人流の回復に伴いバターの需要は急速に回復したものの、脱粉の需要は全くといっていいほど変化していない。脱粉の主要な需要先である発酵乳の需要が減少傾向となっていることに加え、安価なホエイとの競合もあり、乳業メーカーによるたんぱく質強化飲料等の販売強化にもかかわらず、脱粉の需要回復の道筋は依然として見えてこない。
このようにかつてない需要のギャップが存在する中で、バターベースで需給均衡を目指せば生産拡大が可能となるが、脱粉の過剰在庫処理対策からの脱却は困難となる。他方、脱粉ベースで需給均衡を目指せば、生乳生産は700万㌧の大台を下回る水準までの減産が必要となる。後継牛問題を放置すれば、自然体で脱粉ベースの需要水準まで生乳生産が落ちていく可能性があるだけでなく、それだけでは止まらない可能性が高い。その一方でバターの追加輸入は恒常的となり、国産バターにとっては大きなチャンスロスとなる。
財政的な観点からみれば、脱粉の需要に合わせて生乳を生産し、不足するバターを農畜産業振興機構が輸入・放出して酪農振興対策費を確保するというのは魅力的な選択肢であろう。しかしながら、2022年度より2年連続での減産からようやく解放された生産者に対してさらに減産を強いることになるため、とりわけ北海道の生産者の意欲は大きく損なわれることになるであろう。都府県酪農も、後継牛の多くを北海道からの導入に頼っているため間接的な影響は避けられない。
そうならないためには、無脂乳固形分の需要を確保するための対策により生産を維持する必要がある。