全酪新報/2024年4月1日号
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「適正価格の合意形成、依然難しく」第3回飲用牛乳WG――現状と課題を整理し議論
農水省は3月15日、省内で飲用牛乳ワーキンググループの第3回会合を開き、飲用牛乳の適正な価格形成をめぐる課題について、これまでの意見を踏まえ、整理し議論した。会合は非公開。3月28日までに公表された議事要旨によると、コスト指標化に向けた提供データの秘匿性に対し配慮を求める声や、生産者と消費者の間で適正価格に対する認識に乖離があるとの意見が上がった。関係者の立場の違いから依然として合意形成は難しい状況が続いている。-詳細は全酪新報にてご覧ください-
3月15日に農水省内で開かれたワーキンググループの第3回会合
お断り=本記事は4月1日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「生乳需給安定へ向け認識共有」――指定団体等生産者団体と自主流通関係者が用途別乳価等めぐり意見交換
農水省は3月15日、指定団体等の生産者団体と自主流通関係者を集めた「生乳の需給等に係る情報交換会」の第3回目の会合をウェブ併用で開催した。会合は非公開。終了後に本紙など酪農専門紙に概要を説明した牛乳乳製品課によると、各事業者から全国的な需給の安定に向けた取り組みに関する提案が行われ、それを踏まえて意見を交わした。
会合では、需給の安定に向けた取り組みのうち、需要拡大についてでは、魅力ある商品の開発や輸出拡大、酪農が果たす価値普及の広報の必要性などがアイデアとして示された。また、需給調整に関しては、全国協調した在庫対策や季節別乳価の採用、用途別乳価の見直しの検討の必要性、生産頭数のコントロールなどが提案された。
他方で、用途別乳価の見直しに関する提案が上がったことから、用途別乳価の経緯を牛乳乳製品課が紹介した。それによると、昭和30年代は牛乳と乳製品向けを混合した「一本乳価」だったが、需給環境の異なる牛乳と乳製品では価格が合理的であるか分かりづらいという問題もあり、価格交渉の停滞が起こっていたことから、透明性のある価格形成を図るためとして、現在に至るまで用途別取引が行われていることを説明。合わせて、用途別取引を前提に牛乳の需要に合わせ、生乳を乳製品に仕向ける(需給調整)ことで、生産者向け乳価の安定化、牛乳の安定供給が図られていることも解説した。
今後、各事業者から報告のあった取組の提案や議論について論点を整理し、全国の需給調整の在り方や各事業者の役割等について、議論を深めていく方針としている。
「脱粉在庫削減対策、2024年度は1万9千㌧目標に設定」――Jミルクが継続実施へ
生・処が協調して脱脂粉乳在庫の削減を図る「酪農乳業乳製品在庫調整特別対策事業」について、Jミルクは2024年度も取り組みを継続する。23年度の削減目標数量である3万2千㌧に対し、24年度は1万9千㌧の在庫削減を目指す。3月21日に開催されたJミルクの臨時総会後の記者会見で、内橋政敏専務が説明した。
牛乳・乳製品の需要が低迷しているなか、脱粉の期末在庫は対策を講じない場合、高水準に積み上がることが避けられない見通しであることから、引き続き業界一体となって事業を継続する。23年度と同様にALIC事業を活用し、飼料向け等への販売によって在庫低減に取り組む。
拠出金単価は来年3月までを対象期間として、生産者は23年度の40銭から24年度は「35銭」に、乳業者は10~40銭から「10銭~35銭」の協力を求める方向で、事業規模等も含め現在調整中。
内橋専務は「基金造成について、日本乳業協会等の協力をいただきながら、生産者団体や乳業者との同意締結に向け、Jミルクとしても手続きを進めていきたい」と述べた。
「全酪連、配合飼料価格4~6月期1㌧当たり4300円値下げ」――米国産トウモロコシの生産量が史上最高、南米産も豊作見通し
全酪連は3月22日、2024年4~6月期の牛用配合飼料価格を前期(1~3月)価格から、「1㌧当たり4300円値下げ」すると発表した。一方、哺育飼料価格は脱脂粉乳の相場が堅調に推移していることから、㌧当たり1万円値上げする。
飼料情勢は、米国農務省が1月12日に発表した需給見通しで、米国産トウモロコシの生産量が史上最高となる見通しに加え、南米産も良好な天候を受けて豊作となる見通しなどから、シカゴ相場は軟調に推移し、12月の480㌣/㌴前後から3月は440㌣/㌴前後で推移。
また、大豆粕は南米産地での良好な天候を受けた大豆の豊作見通しに加え、バイオディーゼル向けの大豆油需要の高まりにより、副産物の大豆粕の発生量も増加していることから軟調に推移。12月上旬450㌦/㌧前後から3月は370㌦/㌧前後で推移している。
海上運賃は11月後半にパナマ運河の通航制限を受け、65㌦/㌧を超える水準まで急騰。原油相場は下落したものの輸送需要の増加などから3月は60㌦/㌧台で推移している。パナマは4月まで乾季のため運河水位の改善が見込めないことに加え、南米産大豆の輸送が本格化することから海上運賃は堅調に推移する見込み。
配合飼料価格をめぐっては、21日にJA全農が全畜種総平均で㌧当たり約4600円値下げ、ホクレンも同額の値下げを決定した。
「後継牛確保へ対策急務、業界の持続発展の為に」――第5回
日本乳業協会 本郷秀毅常務理事
前回の本欄では、脱脂粉乳とバターの深刻な需要格差により需給均衡を図る上で困難な状況に直面している一方、生乳生産基盤を維持するためには無脂乳固形分(チーズ等)の需要確保が必要であると指摘した。今号では、関税割当制度廃止に備えたチーズの生産拡大対策の重要性、それと並行して対応が必要な脱粉の過剰分に対する考え方等について、日本乳業協会の本郷秀毅常務理事に解説いただく。
生産基盤維持のために②
「チーズ生産拡大で需要確保、脱粉対策と当面は併存して」
国産チーズ対策の意義と課題は
TPP協定等により、主要なナチュラルチーズの関税は2018年度当初の29.8%から漸減していき、2033年度には撤廃される。2025年度はその中間点にあたり、関税は14.9%となる。また、プロセスチーズ原料用ナチュラルチーズには関税割当制度があり、本制度により国産ナチュラルチーズの生産、ひいては生乳生産が約25万㌧確保されているが、本制度は関税がなければ機能しないため、早晩廃止せざるを得ない。
このため、輸入ナチュラルチーズと価格面で直接競争しなければならなくなるハード系ナチュラルチーズについて、TPP等の協定成立直後、国はその生産を段階的に縮小する方針であったと推測される。
他方、生乳需給の大幅緩和に伴い2年連続での生産抑制を行っている中で、脱粉の需要に合わせて生産を行うとすれば、もう一段の生産抑制が必要になる。矛盾するようではあるが、脱粉の生産に仕向けられている生乳を確実な需要のあるナチュラルチーズの生産に仕向けることができれば、相応の生産を維持することが可能となる。
2023年度補正予算により措置された「国産チーズの競争力強化対策」は、こうした目的をもって措置されたものである。本対策については、継続性に不安を感じるとして本格的な生産拡大に二の足を踏む乳業メーカーが多いと推測されるが、わが国酪農乳業の発展という大所・高所に立って協力がなされることを期待したい。
しかしながら、チーズの生産拡大は、予算の制約や制度的な安定が担保されていないことに加え、乳業工場における物理的な制約や乳業メーカーの生産者に対する疑心暗鬼もあり、一気に進むものではない。生産者との合意の下、2017年から2018年に主要乳業メーカーがチーズの生産能力を倍増した際は、その後の生乳生産が停滞する中で、生産者が生乳取引価格の確保を優先してチーズ向け生乳の供給が削減されたという苦い経験があるからである。その二の舞とならないようにするためにも、改めて、生処官による連携・協調した取り組みが望まれる。
脱粉の置き換え対策をどうすべきか
チーズの増産だけでは、現下の生乳需給、とりわけ無脂乳固形分(≒脱粉)の需給を改善することは困難であると考え、国はチーズ生産拡大対策に加え、脱粉過剰在庫処理対策を継続することとした。仮に、この対策が継続されなければ、2024年度は単年度需給で3万2千㌧(生乳換算38万㌧)も生産過剰と推測される脱粉在庫の積み上がりを抑えることはできないであろう。チーズ生産拡大対策と脱粉過剰在庫処理対策を措置した国の柔軟な対応には大いに感謝したい。
他方、2025年度以降は後継牛の減少が生乳生産に影響してくるものと推測される。脱粉需給の観点だけからみれば、対策を講じることなく需給が均衡に向かうと考えられるため歓迎される事態かもしれないが、わが国酪農にとっては負のスパイラルに陥る契機ともなりかねない。
なぜなら、現在の後継牛の減少速度から推測すると、脱粉の需要を下回って生産が減少する可能性は否定できず、そうなれば、せっかくチーズの生産拡大に向けて取り組んできたことが水泡に帰し、2017年度から2018年度のチーズ生産能力倍増後の事態の再来となりかねないからである。
そのうえで、関税割当制度が対応策抜きで廃止されるようなことになれば、脱粉過剰分相当の生乳約38万㌧に加え、最大で約25万㌧の生産抑制も必要となるため、わが国酪農に対するダメージは計り知れない。
表面的には、加工原料乳生産への影響であるため、北海道の問題のように見えるかもしれない。しかしながら、北海道酪農としては、少しでも生産抑制を回避すべく都府県の飲用市場への供給圧力を高めざるを得なくなるであろう。また、繰り返しになるが、北海道酪農は都府県酪農にとっての後継牛の主要な供給源であり、輸入粗飼料価格が高騰している中、一部ではあるが、最近では粗飼料の供給源にもなっている。したがって、都府県酪農への影響は避けられない。
牛乳・乳製品を安定的に供給するためには、後継牛を安定的に確保することにより北海道と都府県の酪農が共存共栄していく必要がある。同時に、無脂乳固形分の需給均衡を図ることにより生乳生産を安定させるためには、チーズの生産拡大を図りつつ、負担のあり方はさておき、当面は脱粉の置き換え対策を併存させていく必要があろう。そのうえで、脱粉の飼料用への転用から次第にフェードアウトしていくのが望ましい道筋ではなかろうか。