全酪新報/2024年4月10日号
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「生乳需給踏まえ単年度目標に、脱粉削減対策は継続」――中期生乳需給安定化対策
中央酪農会議はこれまで、3カ年ごとに生乳生産の目標数量の方針を設定してきた「中期生乳需給安定化対策」について、2024年度は単年度目標とした上で生産抑制対策は継続しない方針を決めた。今後の生乳需給の見通しが不透明なことなどを踏まえたもの。また、業界を挙げた全国協調の脱脂粉乳の過剰在庫削減対策には引き続き参加・協力する。-詳細は全酪新報にてご覧ください-
お断り=本記事は4月10日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「生乳の用途別乳価見直しめぐり、慎重な対応を求める声相次ぐ」――第3回生乳の需給等に係る情報交換会
農水省はこのほど、3月15日に省内で開いた「第3回生乳の需給等に係る情報交換会」(非公開)の議事概要を公表した。会合では、各事業者が需給安定に向けた取り組みに関する提案を行った後に意見交換。生乳の用途別取引を見直す必要があるとの意見があった一方、需給調整の観点で検討には慎重な対応を求める意見も相次いだ。
用途別取引をめぐり、一部出席者からは「用途別の乳価は生産者から見て、同じ生乳であるにもかかわらず何に仕向けられたかで価格が変わり理解しがたい。一物一価にすれば混乱は起きると思うが、供給量が本当に減るかは疑問だ。海外を見れば生乳取引は様々で、用途別乳価や制度も含め、牛乳の位置づけを議論する場が必要」との意見があった。
他方で「北海道で自主流通が盛んなのは、用途別乳価で少しでも高く売りたいという生産者が多いから。用途別乳価の是非は考えるべきだが、酪農家としては乳価の変動は好ましくない」「諸外国の乳価は一本とは言い切れないが、基本的に国際市場で価格が形成されているため乳価が市況に左右される中で生乳生産が行われている。酪農家の多くは乳価の大きな変動を良しとはしないのではないか」など、乳価一本化には慎重な対応を求める声が多く上がった。
このほか、需給調整のあり方に関する意見として、英国のMMB(ミルク・マーケティング・ボード)解体に伴う一本乳価への移行と、それによる乳価下落といった失敗事例を踏まえ、現在の脱脂粉乳・バターによる需給調整の有用性を改めて指摘する意見もあった。
「乳用牛長命連産性等向上緊急支援事業対象種雄牛リスト公表、1頭当たり奨励金6~9千円交付」――対象種雄牛は計3348種、随時更新
農水省はこのほど、長命連産性の高い種雄牛の交配に対して1頭当たり1回最大9千円の奨励金を交付する「乳用牛長命連産性等向上緊急支援事業」(23年度補正予算)の対象となる種雄牛のリストをHPに公表した。リストのうち、奨励金単価9千円の対象となるのは長命連産効果上位10位以内であり、NTP(総合指数)上位40位以内の国内の対象種雄牛109種。奨励金単価6千円の方は、NTP上位40位以内の国内種雄牛130種及び海外の対象種雄牛3109種(いずれもヤングサイア含む)。リストは随時更新される。
同事業は①長命連産性の高い乳用種雄牛由来の精液または受精卵を使用する場合に1回あたり6千円、②特に長命連産性の高い種雄牛由来の精液や受精卵の場合9千円を交付するもの――。事業実施主体の中央酪農会議が受け付けている。
利用上限は、人工授精や受精卵移植を行う乳用牛1頭当たり3回まで。1酪農家当たりの上限は設けないが、対象精液等の利用計画を示した「牛群長命連産性等向上計画」の策定に加え、事業に参加する生産者へ適切な飼養衛生管理を促す「飼養衛生管理の取組確認書」に必要事項を入力し、向上計画と取組確認書を向上計画に添付し、農協等取組主体へ提出する必要がある。
取組確認書は、昨夏、農水省が策定した「乳用牛の飼養管理に関する技術的な指針」の中から、日々の飼養管理の中で、特に長命連産性を高め、長く牛を飼うために必要な項目を示している。
同事業を所管する畜産振興課は「長命連産性の向上には、対象となる精液等の利用とともに、適切な飼養管理の両輪で進めることが大事。事業活用を通じて自らの経営を見直しながら、生産コストの削減等につなげていただければ」としている。
「静岡県知事の問題発言へ遺憾の意」――中央酪農会議 菊池淳志専務理事
中央酪農会議の菊池淳志専務理事は、静岡県の川勝平太知事が4月1日の新入職員訓示で職業差別とも受けとれる発言をした問題をめぐり「全国の酪農家は厳しい経営環境の中で、国産の牛乳・乳製品を安定供給するために、技術を駆使し、誇りをもって日々生産に取り組んでいる。そのような中で地域行政のトップからあのような発言があったことは誠に遺憾だ」と強い口調で表明した。4月5日にオンラインで開いた「第25回生乳の安全・安心の確保のための全国協議会」の冒頭あいさつで述べた。
同協議会は2005年に中酪に設置されたもので、酪農乳業をはじめ獣医師や家畜衛生、飼料など様々な関係者で構成。会議では生乳の安全安心の確保に係る2023年度の取り組み報告、24年度の方針を協議した。また、初開催より第24回まで元日本大学学長の酒井健夫氏が座長を務めていたが、今回新たに畜産技術協会会長の石原哲雄氏が座長に就任した。
「後継牛確保へ対策急務、業界の持続発展の為に」――最終回
日本乳業協会 本郷秀毅常務理事
酪農乳業の持続的発展や牛乳・乳製品の安定供給には、後継牛の安定的な確保が急務。そのため本欄ではこれまで、コロナ禍に大きく緩和した生乳需給、業界協調で取り組んできた対応策、2025年度から乳量減が顕在化してくるという懸念、脱脂粉乳在庫対策と併存したチーズ生産拡大による需要確保の必要性等について、日本乳業協会の本郷秀毅常務理事に説明していただいた。本号では最終回として、都府県酪農の生産基盤弱体化の懸念に対し、いかに後継牛確保が重要かを解説いただく。
突き付けられる追加の課題
「需要期に牛乳等欠品リスクも、将来の為に後継牛の安定確保を」
これまで後継牛減少の影響というテーマをいただき、「後継牛減少に至った背景」「生乳生産への影響」、そして「酪農生産基盤維持のために」と題して、5回にわたり駄文を書き連ねてきた。5回で終わりにする予定であったが、主に業界関係者向けに、蛇足ながら1文を追加させていただくことにした。具体的には、後継牛減少の影響に関する推測とリスクについてである。
都府県酪農への影響
前回の解説で、2025年度以降は後継牛の減少が生乳生産に影響すると推測されること、放置していると需要が少ない方の脱脂粉乳ベースでの需要水準まで生産が減少する可能性があるだけでなく、勢い余って、わが国酪農は負のスパイラルに陥るかもしれないとの懸念を述べた。では、それはどのような形で顕在化するのだろうか。以下、個人的な推測に基づく仮説を述べる。
まず、後継牛減少の影響がどこに現れるのかということから考えてみよう。都府県酪農の場合、自家産の後継牛の育成を北海道に預託するケースが多いだけでなく、初妊牛を北海道から導入するケースも多い。その逆はほとんどないことから、後継牛の生産と育成・供給は主に北海道酪農が担っていると言っていいだろう。
こうした構造の中で、北海道の酪農家も後継牛の生産を減らしたものとみられるが、自家更新に必要な分まで減らすような経営はほとんどないと考えられる。後継牛の減少は、通常であれば主に都府県向けに個体販売する予定だった後継牛が肉用牛の生産に切り替えられたとみるのが妥当だろう。したがって、後継牛減少の影響は、その確保を北海道に依存する都府県の生乳生産の減少となって顕在化する可能性が高い。
もう1つ考えなければならない切り口は、脱粉ベースの需要に合わせた生産に加え、関税割当制度の廃止によりプロセスチーズ原料用ナチュラルチーズ向けの生乳需要が失われる可能性であるが、政策判断いかんでは、そのいずれか、または両方が同時に起こる可能性が否定できないことである。
その結果、何が起こるかと言えば、加工原料乳需要の減少に応じて北海道の生乳生産が減少する側面もあるだろうが、より可能性が高いのは、後継牛不足により都府県の生乳生産が減少すると推測される中で、北海道においてはできる限り生産抑制を回避しようとするインセンティブも働くため、都府県の生乳不足を補う以上に飲用市場向けの生乳と産地パック牛乳の供給が増える可能性である。こうした観点からも、都府県酪農への影響が増幅される可能性は高い。
仮に北海道酪農も大幅な生産抑制を余儀なくされるようなことがあれば、酪農経営から肉用牛生産へのシフトや経営転換が進む可能性があり、ますます生乳生産は振幅しやすくなることから、需給が読みづらくなることが懸念される。
推測される2つのリスク
前述したことは、生乳生産の観点から都府県酪農への影響の方が大きい可能性があるという推測であるが、その他にも2つのリスクがある。ここ数年、業界は生産過剰への対応に翻弄され、その直前の生乳不足により生じていた課題を忘れているかもしれないが、それらが改めて増幅して顕在化する可能性である。
第1に、最需要期における消費地の飲用需要に対して生乳が不足し、牛乳の欠品が生じるリスクである。都府県の生乳生産が減少した分を北海道の生乳で補おうとしても、輸送能力という物理的制約により需要を満たせない可能性がある。加えて、物流2024年問題により輸送能力に制約が生じる可能性も懸念材料である。生乳生産が低迷していたコロナ禍前までは、スーパー店頭における牛乳欠品の可能性や学校給食用牛乳に関して、加工乳や乳飲料による代替供給について真剣に議論されていたことを思い出していただきたい。想定される都府県の生乳生産は、その当時を大きく下回りそうな勢いだからである。
第2に、バター(及び生クリーム)の生産について、夏過ぎから12月の最需要期に向けて作りだめするための原料乳が十分に確保できなくなるリスクである。取引価格の観点もさることながら、生乳の仕向け先としては飲用向けが最優先されるため、都府県の生産減少とも相まってバター等向けの生乳が十分に確保されなくなる可能性がある。ハンドリングを間違えると、改めてバター不足が社会問題化しかねないため、官民連携した慎重な対応が望まれる。
これまで述べてきたように、後継牛の減少には様々な課題やリスクが伴う。それらを乗り越えて次世代に向けた酪農経営の維持・発展を図るためにも、後継牛の安定的な確保は欠かせない。(本号で連載終了)