乳滴/2023年11月1日号
住宅地の熊、現実に
未来のさびれた商店街。「山よりもこっちのほうが食べ物あんのよねェ」といいながら小熊と歩く親熊。のどかな雰囲気さえ漂うこのワンカットがずっと頭の片隅に残っていた。「2050年のわたしから 本当にリアルな日本の未来」(金子勝著、2005年講談社刊)の1頁だ。家屋立てこもりや人間への攻撃など、住宅地での熊の害の報道が多い。そういえばそんな本があったなと、再び読んだ。印象的なタッチのイラストはあのヤマザキマリ氏によるものだったと再認識。
著者は各種統計・経済指標等の傾向が執筆当時のまま単純に続くと仮定し、未来の日本を描いた。「このままでは社会が持たない。何とか持続可能な形に変えていかなければ」と逆説的に呼びかけたのだ。
しかしながら熊に関しては、現実はシミュレーションよりも早く街におりてきた。人間の生活領域に入ってくる実際の熊はのどかなものではなく、我々の命を脅かす危険な存在だった。
2050年の日本では、このほか少子化で大学はフリーパスに、工場労働者は非正規社員ばかり、中山間地集落は崩壊し、閣僚は世襲議員のみに…等のシミュレーションが示されている。「何とか変えていかなければ」の思いはあれど、既に一部が現実化しつつある。