乳滴/2024年3月10日号
気がつけば独り…
圃場をロータリがけしていたところ、友人の軽トラが道端に止まった。「借りていた田んぼ返すよ」という。
家から遠く面倒見切れず放置していた圃場で、折々に雑草を鋤き込んではいたが、荒れ気味なのを見かねた彼が、ありがたいことに水田を維持してくれていたのだ。
ひとつ年上で、地域のパイオニア的な園芸農家。リタイア農家から頼まれたりして、多くの水田を請け負っていた。
そこへ新型コロナ。政府が全国の学校を休みにしたのが2020年3月。酪農家と乳業会社は学乳分の消費がなくなり混乱したが、春は卒業・入学、イベントなどで花の需要が高まる季節。園芸農家、花屋さんも大変だった。出口が見えない苦渋の中で、園芸ハウスを活用する形で苺に転換。苺は年間通じて作業があり、水田と重なる時期はとにかく忙しいのと、稲作機械一式の更新の心配があり、思い切って自家消費分も含め、コメは作らないと決めたらしい。「花辞める時ほど悩まなかった」とさっぱりした表情。このへんの水田は現代の機械にしては狭く、苦労と米価が合わないのだ。
彼曰く「借りていたのは返して、ウチの田人に貸す。近所は皆いい歳だしいずれ(コメは)お前んところだけになるだろうな」とサラリと言う。