酪農と文学 連載13
この作品は教訓をふくんだたとえ話しの形式で、農場に飼育されている動物(ブタ、ウマ、ウシ、ニワトリ、羊など)たちが人間に反乱して自分たちの世界をつくろうという中味です。そして、その主役がブタなのです。革命の思想、行動、おきまりの独裁政治と全てブタが主要なポジションを占めます。革命の指導者でスノーボールと呼ばれるのもブタ、ナポレオンと呼ばれる独裁者もブタです。この作品のめざすところを解説するほど紙数がありませんが、作者がソ連のスターリン主義の暴ぎゃくに対し強いいかりと警告を発した作品となっていることはまちがいありません。ナポレオンはスターリンだと解しゃくする人もいます。
動物農場―ジョージ・オーウェル 著アマゾンで検索
健康保持に牛乳 独裁側一人占め
農場主のジョーンズ氏(人間)追い出しに成功した動物達は大集会を開き、これからの動物農場の進むべき方向などを協議しますが、勿論、革命指導者のスノーボールやこれから独裁政治を目ざそうとするナポレオンはブタたちでこの農場の主役です。
さて、未来の指導者の健康と頭脳に欠かせないもの、それがミルクとリンゴです。独裁者ナポレオンがそう判断し、これを独占するため工作するのですが、集会中の搾乳牛の異変(乳房がはって乳牛が騒げ出す)からはじまるこのことは次のように描かれています。
『ところが、ちょうどこのとき、さっきからぐあいが悪そうだった3頭のメス牛が、大きく「モー」と鳴いた。なにしろ24時間も乳を搾らなかったので、それこそ乳房が今にもはりさけそうに張っていたのだった。しばらく考えてから、その豚たちはバケツをもってこさせ、かなり器用にメス牛の乳を搾った。というのは豚の前脚は、乳を搾るのにうってつけだったからである。まもなく、泡だったクリームのような牛乳が、バケツ5杯も搾れた。そして、多くの動物たちが、少なからぬ興味をもって、その牛乳を眺めていた。』
牛乳が貴重な食料であることには人間から動物たちの世界に変っても同じなのです。牛乳の処分で気にする者もいます。メンドリは以前自分達のエサに混入してもらったことなどを口ばしります。しかし、ナポレオン(独裁者のブタ)は次のように叫んで、牛乳への関心を干し草収穫に向けます。この時、この独裁者は牛乳とリンゴを今後いかに独占していくか考えていたのです。
『「同志諸君。牛乳のことなんか気にするな!」とナポレオン(豚の独裁者)がバケツの前につっ立ちながらいった。「こんなものは、どうにでもなる。取り入れのほうがもっと大事だ。同志スノーボール(豚の革命指導者)が、諸君の先頭にたって案内する。わたしもあとからすぐいく。同志諸君、前へ進め!干し草は諸君を待っているぞ」』と叫びます。結果的には5杯の原乳はこのナポレオンが飲んでしまうのですが―。
さて、スノーボールという革命指導者(作者はこの人物をトロッキーにみたてているようです)もたくみに追放(犬のとりまき)するのですが、そのスノーボールが主催する委員会で、牛乳とリンゴを永久にブタの独裁者とそのとりまきの食料とするためナポレオンは次のように演説します。
『(前略)その目的はただひとつ、健康を保持するためなのだ。ミルクとリンゴは(同志諸君、科学がちゃんと証明しているのだが)、豚の福祉にぜったい欠くことのできない成分を含んでいるのだ。われわれ豚は、頭脳労働に従事している。この農場の運営と組織は、すべてわれわれの双肩にかかっている。われわれは、日夜、同志諸君の福祉に心をくだいている。従って、われわれがあのミルクを飲み、あのリンゴを食べるのも、ひとえに同志諸君のためなのだ。(中略)彼ら(豚以外の動物たち)は、もう何もいえなかった。豚たちに健康でいてもらうことが、どんなに重要であるかは、全く明らかすぎるほど明らかだった。というわけで、みんなは、それ以上とやかくいわないで、ミルクと、風で落ちたリンゴ(また、リンゴが実ったら、その収穫全部も)を豚たちだけが食べるようにすることを承認したのだった。』と。
この動物農場では乳牛たちは人間世界でたとえれば一般国民で革命指導者でも、独裁者やそのとりまきの秘密警察(この物語では犬がその役目)でもありません。しかし乳牛が産出する牛乳は主役(豚の独裁者)たちの重要な食料として位置づけられています。
「革命を進め成功させ、これを指導する頭脳を働かせる者の〝健康を保持するため〟に是非牛乳は必要で欠くべからざるものであると!」と。
牛乳とリンゴが特定の者(ブタ)だけの大切な食料とは困りものですが、作者が考える牛乳の重要性がこのような著述となって表現されたと思います。
本連載は1983年9月1日~1988年5月1日までに終了したものを平出君雄氏(故人)の家族の許可を得て掲載しております。