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ペリー来航の2年後、タウンゼント・ハリスが日本の下田にやってきたのは1856年(安政3年)であった。ご承知のように、その地の御用所(下田)、それに、幕府や朝廷まで入り交って、日本国中が大さわぎをしたわけです。生活の習慣、食生活のちがいの中でおりなすさまざまな出来事をつづったのが、スタットラーが書いた「下田物語」です。


〝わたしの滞在に当たって、ぜひ牛乳を供給して欲しい〟それがアメリカ人、ハリスの願いであったことは当然です。牛乳の供給をめぐって興味ある交渉が描かれています。かの有名な〝唐人お吉〟(ハリスの愛人)のことは別として牛乳供給を要請するハリスのやりとりを紹介します。

下田物語 ―アメリカ総領事ハリスの着任― スタットラー 著アマゾンで検索


乳牛飼育はダメ 香港山羊はOK

1986-08-01

130年前(安政3年)、アメリカの総領事のハリスは日本に着任して、食生活の中で、牛乳を供給してくれないか、と下田奉行所を通じて交渉していることは、いままで酪農史や、牛乳の歴史のなかで有名な話となっている。


その時のやりとりの一部を書物に書いているのが、この「下田物語」である。


作者スタットラーは日本側の記録にもとづいて「牛乳・水・食料の手配」という小題のもとに次のように記述している。


『森山勤番の役人からあなたが牛乳をほしがっている由を聞きましたが、しかし日本では牛乳は一切飲用に供されていません。牛は農民が田畑の作業や、重い荷物の運送のため飼育していますが、頭数は増えず、牛乳は子牛の飲用にのみ供されています。私たちはあなたの要求をお断りしなくてはなりません。


ハリス理由を教えてくれてありがとう。それなら、私がここで牝牛を1頭飼いたいと思います。私が自分で乳を搾るつもりです。』


通訳の森山が力説しなくても、この頃の日本は牛乳を飲む習慣もない、従って、飲用牛乳を供給して欲しい、というハリスの要望も通りはしない。


しかし、ハリスは牛乳を供給してもらうのがムリならば乳牛を1頭なんとかしてくれないか。そうすれば自分で飼育して、搾乳も自分でして、自分自身の欲求を満たそうとしたが、これもダメだったわけです。


森山通訳はハリスの申し出に次のように断わりの念をおします。


『森山私の申し上げた通り、牛は農業と運送のためだけに使用されているのです。農民にとって牛は重要な財産であって、1頭たりともあなたに融通するわけにはまいりません。』と。


作者のスタットラーはこうした事情を次のように記述しています。


『(前略)農民は国家の基礎であり、役人とても軽軽しく米を作るという農民の資格に介入してはならないという点である。たしかに、役人たりとも(牛のような)農民のもっとも重要な財産を徴発しはしなかったし、各農村が共有財産として後生大事にもっている牧草地に手出しなどしなかった。たぶん森山はハリスに、牛乳の問題などは品位に欠けていることを納得させたのであろう。(後略)』


というわけで、ハリスは乳牛を飼って、自分で原乳を搾って飲むのは、当分あきらめる回答をするが、乳牛が望みないなら山羊はどうかと、森山通訳にたたみかけています。


『ハリス山羊は当地におりますか。森山日本には1頭もおりません。ハリスもし私が山羊を香港に注文して取り寄せましたら、当地で私がこれをかってもよろしいですか。森山結構です。しかし、それを放牧地に放し飼いにしてはいけません。ハリス寺の敷地のなかでなら飼ってもいいのですか。森山豕(いのこ)=豚=と同じことなので、寺の敷地の中で飼うのはよろしいが、しかし、放牧地へ出してはなりませんぞ。』


ハリスは乳牛の乳が飲めないのなら、せめて山羊の乳、それも香港から船で運んで山羊乳を飲めないものかと交渉したわけですから、乳類への思い入れは相当のものだったわけです。


国の政策を当然一通訳如きがまげるわけにはいかないだろうし、ハリスにしてもこうした国是にゴリ押しすることもできない。食に関する話し合い、というよりも国の政策や法の上の調整なのだ。


しかし、130年前のアメリカと日本、法にふれない食生活の交流はなんら不自然ではない。


先ず、アメリカ側はサン・ジャントン号で、幕府派遣の要人、地元奉行、通訳などを招いてレセプションを行うが、日本人の一行は『気ままに楽しそうに』ハムを食べたり、牛の舌肉や、冷やしチキン、えびサラダやシャンペン、ブランデーを食べかつ飲む。


一方、その前に地元の酒宴で、ハリス達は日本側の宴会の食膳に出された、酢づけのあわびや、鱒(ます)や、お吸い物、それにご飯と漬物まで〝おいしい〟といって食べている。


作者はこう書いている『アメリカ人はみな舌づつみを打って食事を楽しんだ』信じられないがそう書いています。


食の文化は、古今東西時代をとわず、ごく自然に交流するらしい。残されているのは習慣や、ややこしいことにそれをはばむのは宗教的なことや国の政策等の中にあるにちがいない。良きにつけ悪しきにつけ。

本連載は1983年9月1日~1988年5月1日までに終了したものを平出君雄氏(故人)の家族の許可を得て掲載しております。

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