酪農と文学 連載30
あの有名な「地底探検」や「月世界旅行」でおなじみのフランスの作家ジュール・ヴェルヌの作品「十五少年漂流記」を紹介します。標題の通り15人の少年が船で流され、孤島にたどりついて2年間さまざまな苦難をのりこえて生き抜き、生れ故郷に無事帰還するという冒険物語です。この無人島で登場するのが「牛の木」なのです。木の牛といわれるくらいですから、その木から出る樹液は、成分といい栄養面といい、まったく原乳と同質であるという設定であり、この液をかためればチーズも出来る、というわけです。
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牛乳と同じ成分「牛の木」を発見
どこの国の少年達も、夏休みが近づけば、楽しい計画でいっぱいなのです。
このニュージーランドのオークランド市チェアマン校に学ぶ少年達も父兄達の計画のもと、スルギ号という帆船で船旅をし洋上で夏休みを過ごそうというわけだったのですが、フランス人兄弟の弟の方が、船長や運転士、そして水夫らが乗りこむ前につい、いたずら半分に、とも綱を解いてしまう。
船は自然に動き出した、14人の少年と黒人のボーイ(モーコーという名前)15人が気がついた時はすでに遅く、悪いことは重なるもので岸を遠く離れて、暴風に出くわす。
マストはおれ、帆は吹き飛び、大波の中で漂流が続き、何日か後に1つの島に近づき、ようやくの思いで上陸に成功するが、ここがわけのわからない無人島であった。
2ケ月の楽しい船旅ですから、あらかじめ必要とするものや食糧はつめ込んであったとしても、船は破損し、島の近くを通る船さえ姿も見えない孤島で、15人の少年の苦闘がはじまるわけです。
この物語の原題が〝2個年の休暇〟ともつけられていることから、少年達は2回もその島で冬を迎えるわけです。
要するに2カ月の食糧は保有していたものの、結果的には20カ月は自給自足の食生活であった。
少年達の大統領制度の仲間われ、再び仲直り、島に漂着した悪人水夫らとの闘争などがあるわけですが、ここでは食料の自給、ましてや動物性のたんぱく質や、カルシウムなどをどのように発見し、確保したかが興味深い。ニュージーランドといえば酪農立国である。そこに生まれ育った少年達が極限に追いこまれてこれを求めないわけがない。
島に住む鳥やけものはすぐに獲得することに成功するがやはりもっともっと、別の食糧を確保し、長期保存を心がけねばならない。
なぜなら、この無人島でいつ発見してもらえるか、その保証は希望こそ胸に秘めていても、誰も出来ないことがわかったからです。
少年達はけものを得ることのほかに植物類にこれを求めました。「茶の木」そして「砂糖の木」しかり、そして探検の末に発見したのが「牛の木」なのです。
次の下りを読んでいただければ理解していただけるでしょう。
『さらに、また新しい植物の発見があった。沼の林のはずれに、それは、15フィート(約4メートル50センチ)の高さで10インチ(約25センチ)ほどの大きな、月桂樹のような葉をつけた木があった。10月25日、ケートはこの木を見つけると叫んだ。「牛の木です」一緒にいたドールとコスターは思わず笑った。
「牛の木ですって」
「乳を出す樹ですよ。ビクーニヤ(山羊そっくりの動物)よりもずっと上等の乳を」
ケートの知らせを受けたゴードンは、サービスと沼の林に急いだ。ゴードンは、木を丹念に調べた。それはアメリカの林にも沢山ある、ガラクトデンドロン種の1つだった。
これは大発見である。木の幹からは、白い乳が流れ出す。味も栄養も牛乳に劣らない。それを固めれば、チーズが作れる、油にもなる。光りの強い〝ろうそく〟を作ることもできる。』
文中に山羊そっくりの乳を出すビクーニヤという動物が登場し、少年達に山羊乳を提供(ほんのわずかなもの)するが、この作者は、どうしても、牛乳と同質の成分を持ちしかも豊富に与えることのできる牛乳に似たなにかを、少年達に授けたかったにちがいない。
この冒険物語では、いかに衣食住を確保していくかが描かれているが、これらをどのように毎日処理して言ったかは書かれていない。
特に食糧確保とその重要性がわかるだけに、例えば牛の木からとれる、生乳そっくりの樹液で、日常の飲用のことや長期保存にそなえてのバター作りなど描かれていたら、と思う。
しかし、少年達の団結、友情、勇気を全面に浮き上がらせている少年冒険物語りであれば、やむを得ないかも知れない。
いずれにしても「牛の木」とは―、そしてその樹液が、生乳と同じ成分であり、栄養価地が何ら変わらない、とする、その奇抜な発想に驚きます。
極限状況とはいえ、少年達が栄養面でそこまで求め、乳牛がムリなら生乳を生む〝木〟まで求めたことに対してです。
それとも、世界のどこかにこんな〝木〟があるのでしょうか。
本連載は1983年9月1日~1988年5月1日までに終了したものを平出君雄氏(故人)の家族の許可を得て掲載しております。