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新年あけましておめでとうございます。いま、この欄をお読みになっているあなたの周辺には、雪が舞っていますか、それともミゾレまじりの吹雪ですか、雨が降っていますか、寒気の中でも空は快晴ですか?いずれにしても寒い季節になりました。寒い日の鍋物は、人の心まであたためてくれます。純日本風の鍋料理もすばらしいですが、チーズなど乳製品を使った欧風の鍋物もすばらしい、心のあたたかさと、独特の味覚を運んでくれます。 昨今はお正月といっても、フォンデュ鍋やオニオングラタンスープなどを食べる家庭もあるようでわが国の食文化も少しずつ変革をみせています。さて、今回は戯曲アルルの女で有名なフランスの作家アルフォンス・ドーデーの短編小説集「月曜物語」の中から「チーズ入りスープ」という作品を紹介いたします。

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不入り劇場活気 夜寒のチーズ鍋

1986-01-01

この短編はたったの2500字位の短いものです。その中に『ああ!チーズ入りのスープのうまそうな香り・・・・・』という文章が、わざわざ行を変えて単独で4回も出てきます。


寒い冬の外は雨、屋根裏部屋のだん炉は燃えつづけその上にかけられた鍋はグツグツと音をたてている。部屋の主はまだ帰らない。食器1人分と古ぼけた本が1つ。


情景はこれだけです。作者の目が部屋中をくまなくなめまわします。チーズ入りのスープはふっとうし、その匂いはすばらしい香(かおり)をいっぱいにただよわせています。


そうです、視覚と嗅覚と想像で短編が構成されています。先ず、作者は部屋のふん囲気をこのように表現します。


『(前略)室内は立派で居心地が良く、中へ入るとなんともいえない幸福な感じがして、風の音とといを滝のように流れる雨水にいっそうこの感じを深くする。(後略)』


部屋はきちんと整とんされているし、ご主人がいつ帰宅してもいい状態です。作者の目は走ります。


『(前略)なべは火に焦げ、さらの花模様も水に洗われて薄ぼんやりしているように、本もまた、縁が傷(いた)んでいる。いずれも使い慣(な)れて少し疲れかげんだが、しみじみとした味がある。この家の主人は毎晩非常に遅(おそ)く帰るとみえる。(後略)』


作者は部屋のたたずまいのあたたかさ、部屋にあるチーズ鍋や古ぼけた1冊の本にもあたたかいまなざしを送って表現している。情況もその通りであろうが、寒い冬の雨の夜をあたたかくつつむのは、鍋から漂うチーズ入りスープのうまそうな香りがこれを助けていることはまちがいない。


さて、作者はこの部屋の主人の職業は一体何んだろうかと想像をはりめぐらす。


多分サラリーマン、それも郵便局か電信局で夜業をしている人にちがいない、と、うす暗い部屋で想像する。ところが、ちがうことがわかる。だん炉のあかりに浮き出てきたのは壁にかかった大きな写真です。それは皇帝や、マホメットやローマの騎士なのだ。それに王冠やカブトの中の顔はみな同一人物なのだ。


この部屋の主人はオデオン座の芝居を演ずる役者、俳優なのです。


さて、職業ははっきりしましたが、ここからがこの作品の、というよりも『ああ!チーズ入りのスープのうまそうな香(かおり)!・・・・・』が息づいてくる。そのためには舞台で皇帝を演ずる、部屋の主、俳優にのり移らざるを得ない。


『今、彼は川向こうの宮殿にいる。脚に長ぐつをはき、肩に外とうを羽織(はお)って、回廊を歩き、大声に叫び、まゆをしかめ、悲劇的な台詞(せりふ)を言いながらもいかにも退屈そうだ。実際、空席を前にして芝居をやるのは寂しいものだ!それにオデオン座の客席は、悲劇の演ぜられる晩はことに大きく寒いのだ!・・・・・(後略)』 さあ、ここでの俳優は芝居を演じながら、あたたかい自分の部屋、鍋からただようチーズの香りなどを思い出し、不入りで活気のない劇場を熱気につつむべく己の演技に活を入れるのだ。早く帰りたい、彼は別人のようになって芝居を演ずる。


『(前略)家のだん炉が消えかかっているのかもしれない・・・・・夜が更(ふ)けるに従って、彼の描く幻影は近づいてきて、彼に力を与える。奇跡だ!凍っていたオデオン座が溶けてきた。(後略)』と。


彼は立派に演じ切った、観客は彼の演技に酔った。大かっさいだ。これも鍋の中で主人の帰りを待つチーズ入りスープのうまそうな香(かお)りと、白い糸を長く長く引くチーズへの追想のおかげなのだ。

本連載は1983年9月1日~1988年5月1日までに終了したものを平出君雄氏(故人)の家族の許可を得て掲載しております。

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