酪農と文学 連載27
「牛乳やバターは精力増強には欠くことのできない素材」と、2,000年前にインドで書かれた世界最古の性典といわれているカーマスートラ(愛の格言)という本に書かれています。今日「牛乳は完全な栄養食品」といわれているが、強精でも完全栄養でも原点は同じでしょう。異なるのは単品でか、他の強壮植物などとの混合のちがいでしょう。
それにしても、これだけ大昔から牛乳やバターの効用をうたっていたインドから、仏教がストレートに伝わってきていたならば、肉食はともかく、牛乳、乳製品はもっとわが国一般国民に早くから食されていただろう。
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人を惹きつける精力増強に牛乳
2000年たって今日でも読まれるくらいですから、このカーマスートラ(愛の格言集)という性典はいいかげんなものではありません。
性の技巧からはじまって、妻をどうすれば獲得できるか、娼婦についてや、いわゆるこの書物が、人間の求めるべき美徳や宗教的な価値、経済的向上にあわせて快楽や官能の喜びを知ることが相互的に人間の幸せに迫るものであるという考えの上にたってカーマ(快楽、官能の喜び)についてまとめたものです。
その最後に「人を惹きつける法について」という章があります。こういっています『人間は美貌や、すぐれた性質、若さ、気前のよさなどは、その人間を魅力的にするいちばんの自然の方法であるが、こうした点に欠ける人間は、男でも女でも人為的な方法や技巧に訴えなければならない。』
そして、これらの人為的な方法や技巧について書かれているが簡単にいいますと、1つは今日でいう美容と健康であり、2つ目は性事における媚薬のことであるが、この2つめの項では或る種の木の芽を粉末にして猿の糞とまぜあわせて処女にふりかければその娘は他の男とセックスしなくなる、などというおそまつな内容も含まれていて、信用できない。
しかし、3つ目の精力増強法については牛乳、バターが他の強壮植物等とまじって重要な素材となってくる。
ここには牛乳、バターなどを主にした12の精力剤の作り方と効能が書かれている。2つ3つ主だったものを訳文のまま紹介します。
1つにはこんなのがあります『牛乳に砂糖、ウチュチャタの根、パイパー・チャバ、甘草(かんぞう。セリ科の一種で薬用や香料とする)をまぜて飲めば、男の精力はぐんと強くなる。』と。
また、『古代の著作家たちの言によれば、トラパ・ビスピノサ、カスリカ、タンカン・ジャスミン、甘草などの種または根に玉ねぎの一種をまぜてすりつぶし、その粉末を牛乳、砂糖、バターといっしょにとろ火で煮つめて飲むと、数えきれぬほどの女を享楽することができる。』といったもの。
そして、『ゴマの実の外がらをとって雀の卵に浸してから、牛乳、砂糖、バター、トラパ・ビスピノサ、カスリカの樹液などとまぜて煮たのち、麦と豆の粉を加えて飲めば、多くの女を楽しませることができる。』などなどです。
現代では牛乳やバターを精力剤という人はいない。それだけ栄養食品として普遍化したためでしょう。
余談になりますが、数年前ニュージーランドのミルクボードで消費拡大の一般消費者向けのテレビスポットをみたが、ここでは中年の男性がミルクカップを持ち、美人の若い娘としたしげに話し込んでいる隣に、コーラのような甘味飲料水を持った、たくましい若者が、うらやましげに中年男達に視線を送る、といった画面でこれをみながら、思わず苦笑したのを思い出します。ここでは、牛乳が完全に精力強壮剤ということになって画面でうったえています。
〝コーラのような飲料水を飲むより、牛乳で栄養のバランスをとって若い女の子をものにしろ〟ミルクボードの宣伝マンはいいたいところでしょう。
また、豪州のニューサウスウェールズ州の牛乳消費拡大会議は、生乳95%に、あづきに似た、豆のエキスを混入した中年用のフレーバーミルクを発売していると説明しています。
2000年前も今日も、牛乳、乳製品がいかに価値ある食品であるかは不変でありますが、牛乳に変わる飲料、牛乳に変わる強精ドリンクなどがあまりにも多すぎる時代ではないでしょうか。
本連載は1983年9月1日~1988年5月1日までに終了したものを平出君雄氏(故人)の家族の許可を得て掲載しております。