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オランダの移民を先祖に持つ女流作家パール・バック(大地という有名な小説を書いた人)の母の伝記であるが、開拓時代の祖母は洋服の仕立てをして「めす子牛」1頭を手に入れ家族全員が牛乳を飲めるようにした、とあるから、その血をひいた娘(伝記の主人公で作者の母)の生涯(100年程前)も、大半を南中国で送ったとしても、いろいろと牛乳や乳製品とかかわりをもっても不思議ではない。今回はこの作品を通して伝わってくる牛乳、乳製品などがどのように登場したかを紹介します。

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チーズ売捌き 中国の窮民養う

1986-05-01

宣教師の妻として南中国で生き抜いたパール・バックの母は7人の子供を生みながら4人も中国の気候、風土のために死なせている。


キリストの教えを広めることを職業とする夫に従って、ついに神への理解を十分に得ることはなかったが、その生涯は明るく、勇敢で、もっともアメリカ人的な女性としてえがいている。


パール・バックは母の育ったアメリカと南中国を次のように書いている。


『(前略)清らかなアメリカの霧の中で育った母が、人間の呼吸と汗ばんだ肉体の臭気との充満した、重くるしくうっとうしい南中国の8月の真昼に、時折、卒倒したのは無理もないことだ。この清い高原に立ちこめる霧と溌剌たる日光の中で、彼女の青春は、健やかに、またしなやかにはぐくまれた。』と。


そしてさらに『駆けまわるためには涯しない広い原があり、可愛がって育ててやる動物もあまたあった。牛舎には牝牛がやさしい眼をして啼いている。みんなよく子を産んだ』とも。アメリカの大地と乳牛達、母が母らしくあるには永遠にこれらの周囲のものが生涯なくてはならなかった、そう作者はいっている気がしてならない。


さて、作品の中心となる中国の生活の中で布教の支援物資としてチーズが大量に送られてくる。


『時にはアメリカから金銭のかわりに食糧を満載した船が来た。食物は中国の人々の口に合うものばかりとも限らなかった。一度はほんのちょっといたんだチーズが数百箱送られて来た。殆ど何でも食べる中国人が唯一つだけ食べられないのがチーズだった。海外で食べ慣れて来た人たちを除いたら、一般の中国人には合わないらしい。母は埠頭に(ふとう)に積み上げられたチーズの箱を、世にも悲しい眼で眺めていたが、忽ちにして気を取り直し、チーズの販売人に早変わりした。』


このあと、そうたくさんいるわけではない地域の白人家庭を軒並み訪問して、大量のチーズを売さばいたわけです。


残ったチーズは買い込んで自分の地下室にしまいこんだ。その後何年かこの一家はこのチーズを食べたわけですが、作者はこのチーズを『飢饉(ききん)チーズなるもの』、と表現しています。


勿論、この時は金でなく本国からはチーズが送られてきたわけですから、売ったチーズの代金で米とか粉をかって、多くの困っている中国の人々を養ったのです。その辺にも「飢饉チーズ」と呼んだ理由がよくわかります。


チーズはともかくロングライフミルクなど当然ない時代ですから、中国で生乳を求めますが、これが水牛の乳です。これとてもあまり手に入らない。これを集めてバター作りもするわけですが、思うようにはいかないところなどが出てきます、百年前なら当然です。


従って、アメリカの少女時代すずしい地下室でバター作りした母の話などが途中で描かれています。


さて、60才になった時、パール・バックの母はわけのわからない一種の熱帯病にかかった。これという治療法も発見されていないし、もともと健康な体だったが、この中国で幾度となくマラリヤや、赤痢などにかかっていたため、日、一日とみるかげもないほど、やせ細っていくわけです。


こうした病気は、たまに食餌療法でなおることがあるとわかった時、2ケ月間、〝牛乳療法〟(多分水牛の乳?)をつづけた。2時間ごとに少量の牛乳を飲むやり方だったが効果がなかった、このため『乾酪素の錠剤でつくったバター・ミルクを試みたところ幾分よかった。』とあるが、皮肉なことに療養のため転地して、人づてに聞いた〝肝臓スープとほうれん草の汁〟の療法によっていくらか元気が出てきたことだ。


この書は宣教師の妻として大半を中国で過ごした一アメリカ婦人の生涯であるが、女流作家パール・バックの筆により、感動的な伝記となっている。


若し、アメリカの風土と気候は勿論十分牛乳やヨーグルト、チーズ、バターを食べながらの食生活を送っていたならばパール・バックの母は10年は長生きしたのではないか、そんなことを感じさせる伝記です。

本連載は1983年9月1日~1988年5月1日までに終了したものを平出君雄氏(故人)の家族の許可を得て掲載しております。

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