後継者、酪農女性に贈る牛飼い哲学と基礎技術
連載10
健康状態映す体細胞数 仲間の管理技術を習得 細胞数減少で乳量増加 経済効果は大
◎体細胞の現状
体細胞といえば、酪農家は法律で規制される糞尿処理よりも悩まされている。「体細胞数はどれ位?」と聞いただけで顔がひきつる人もいる。
世界中の酪農家は毎月1~3回、生乳検査所から各戸の体細胞数が報告される。酪農組合によっては全組合員の体細胞数の検査一覧表が公開され、30万以上には赤線が引かれて、ペナルティの対象にもなっている。
手元に3つの集乳ルート(23,24,66戸)別の5月、9月、12月の体細胞数の成績表がある。この表から最も少ない体細胞数は5万、逆に100万の大台に乗りそうな98万がある。Cコースの2戸は毎回90万を越えていた。季節的な夏バテの影響もみとめられる。
表示したように、10万以下が2~12%、50万以上が4・5~31%で、体細胞数が極端に多い集乳ルートは15万以下が少ないルートと一致していた。
一方、10万以下が7~12%を占めるA,Bルートは、共に50万以上が1ケタで、好調であった。なお、10万以下の酪農家は殆んどが各月各回とも成績が10万以下で、例外的に増加しても15万前後であるのに反して、50万以上の酪農家は残念ながら毎回の成績に改善の兆しがみられず、連続して84~98、61~93、76~95万と最悪であった。
前回成績が30万を越え、次回は15万近くに改善された酪農家は1割弱しかない。改善された酪農家の倍増を望む所だ。
各コースとも成績不良者は申し合せたように隣接同士で、管理技術に共通点があり、悪くすると酪農に対するやる気を失い、これが連鎖反応的に酪農仲間から脱落細胞のように剥がれ落ちる可能性が心配される。
A、Bルートでは10万以下が1割弱、15万以下も2~3割と好成績で、連続最小値保持の実力がある。この地域的好成績を分析して、周辺に波及効果をもたらせば酪農家の離脱が防止されよう。
組合によっては、10万以下は2円加算し、30万以上は5円減額、指導員ともども改善に取組み、30万以上を追放、真に健康な乳を供給して生協との価格維持を実現しているところもある。
◎体細胞と細菌
乳中体細胞は100年前に「乳中の白血球」という論文で発表されていた。牛乳を汚染する点状・棒状の細菌を直接光学顕微鏡でカウントするブリード法の考案者がBODY CELLと称して発表した。このブリード法は現在も公定法として電気的測定器等の精度管理の基準となっている
このように古くから細菌と同時に体細胞は研究されていたが、細菌汚染があまりにも重症で細菌対策が先行して進められた。
細菌数の規制により、30年前に東京都で400万に規制されたのに反対してデモをかけたり、多数の酪農家が廃業するに至った。
現在の細菌数は9割以上の酪農家が1万以下で光学顕微鏡の検出能力を越える良質乳となり、手間のかかる培養法で1千個という驚異的好成績を関係者の実践力で達成させている。
それでも消費者のなかには煮沸せず、そのまま飲む牛乳コップ一杯の中に20万個(200ml×1千個)もの細菌があると敬遠する人がいる。
40年程前から接している乳房炎関係の外国文献を読んで、搾りたての牛乳の中に細菌が存在し、細菌同様に生きていて細菌や脂肪を貧食することを知った。
顕微鏡で覗いてみると、視野には細菌が見られないのに、細菌の数百倍も大きな白血球体内に多数の細菌が貧食された姿を確認。中にはアメーバー状に体をくねらせた状態で細菌を捕食する姿が見られ、興味をそそられた。
それまでは、病血をプレパラートに塗布して染色鏡検してダニ熱の原虫や赤血球・白血球の数や形態を分類して治療方針を立てていた。尿も血球が多いから腎炎の疑いとか、細胞診で膀胱癌が診断されている。
このように医学界では細胞診が重視されていることを誰しも充分承知している時代だ。
牛乳にも白血球や赤血球など細胞が存在する。これらは牛乳の健康、特に乳房の健康を反映し、細胞が少ない程健康で乳量が多い。
◎乳中体細胞
なぜ牛乳中に細胞が存在するのか?細胞の正体は白血球らしい。白血球ならば化膿と関係する。早い話が牛乳中に「ウミ・膿」が混入しているのである。消費者はこの「ウミ」を飲まされていると感じ、一段と警戒の念を高めている。
牛乳は良質な完全栄養食品だと、旧態然の売り口上に借す耳を持たない消費者は大製薬会社のコマーシャル通りにサプリメントを愛飲し、ますます牛乳消費は停滞傾向から脱することが出来なくなる。
世の中の健康志向の流れのなかで酪農家が共存共栄していくためには、「乳中体細胞数が50万以上でも販売できる」という行為は、「30年前の東京都の細菌数は400万規制だった過去」と並行して考えねばならない。
また、米国でのBSE発生に伴いアメリカ産牛肉を宮崎産と偽装して販売する行為と同罪ではなかろうか。
自主規制の30万を達成できない5割前後の酪農家は、すでに3割の仲間が15万以下を達成しているわけだから、身近に接触し、彼等の管理技術を研修導入できる。
かつて、細菌数400万規制でショックを受けたものだが、現在は1千個を実現している。幸い体細胞数は外部から汚染する細菌と異なり乳牛自体の健康向上・乳量増加ができるため経済効果も大きい。
◎酪農家バルク乳体細胞数の分布状況(%)
※は「食の安全」からも問題あり。
(参考)140戸で30万以下71%、10万以下18%、最小値4万(2戸)の組合あり。
本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。