牛飼い哲学と
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エサの腹持ち具合は? 消化率と生産効率が重要 粗飼料の組み合わせが酪農家の腕の見せどころ

2007-08-01

「はじめに」鯉淵学園で栄養士の卵達を相手に「卵」の栄養学を講義実習していたとき、「半熟卵以外は食べたことない」「卵黄はコレステロールが高いので食べさせてもらえなかった」など、栄養にうるさい母親に育てられてきた学生がいた。


私は登山するときには、学生達に固ゆでの卵を持参させ、温泉場では温泉卵(反対卵)を試食させる。その時に腹持ち具合を確認させる。実習では反対卵を調理させて卵黄・卵白質の加熱温度差による熱変性を実感させた。卵には絶対に食塩を添加させず、自分の舌先で塩味の強弱を卵黄と卵白で鑑定させた。


卵の塩分は生命を誕生させるために必要且つ十分なる味付けがなされている。そして、卵白には卵黄の5倍量の食塩が含まれている。さらに女性ホルモンや副腎ステロイドホルモンの材料として必要なコレステロールが卵白には痕跡量でその1400倍量が卵黄に含有され、ビタミンDの生成をも担っていることを認識させた。


生卵には蛋白分解酵素抑制物質が含まれ消化が悪いとされるが、加熱すると容易に抑制物質が分解されるため、半熟卵は消化がよくなる。


一方固ゆで卵は消化が悪いと思い込まれているようだ。ここで消化が良いとは食物の胃内滞留時間が短く、すなわち「腹持ち具合」が短く早めに腹が減ることを意味することになる。


半熟の目玉焼き(インドネシアでは「牛の目」と呼ぶ)と固ゆで卵2個たべて「腹持ち具合」を比較してみよう。


胃内滞留時間の調査報告では、100㌘基準で半熟卵90分、生卵150分、卵焼き165分、固ゆで卵180分。ちなみに麦飯105分、米飯130分、焼いも180分、ビーフステーキ255分、牛乳は200㌘で120分、バターは50㌘で720分と報告されている。


体調を崩しているときや乳幼児には、半熟の方が胃における滞留時間が短い分だけ負担が少なく、体に良いとされ消化も良いと言われている。


また、農繁期や登山時などの活動時には半熟や麦飯ではすぐ腹が減るため、食事回数を増加させて総摂食量を増量させる。これは乳牛の高泌乳期での給餌法にも活用されている。


ルーメン内消化率と滞留時間


炭水化物のルーメン内消化は飼料の発酵速度とルーメン内滞留時間(通過速度)に影響を受ける。発酵消化の速度はでん粉、穀類が多い飼料ほど早まるが、原料によっても、さらにその加工方法によって発酵速度は異なる。全粉より粉砕、圧片、粉末など粒子サイズを細かくすると表面積が増えて消化しやすくなる反面、滞留時間が短くなり、分解時間が短くなるため、消化率は低下する。


粗飼料ではNDFセンイ含量が低いマメ科牧草がイネ科牧草より発酵速度が速く消化が良いという特徴を持つ。一方、発酵速度が遅い繊維質粗飼料を切断して細切りにして給与すると滞留時間が短縮され、ルーメン内での消化がさらに低下する現象が起こる。


なお、飼料分析結果が同じ牧草でも、乾草しにて給与するよりサイレージの方が消化速度は速く、濃厚飼料並に多めに給与できて高泌乳期向きである。このように、これらの組み合わせは酪農家の腕のみせどころだ。


また、穀類では麦飯がトウモロコシやソルガムより発酵消化速度が速く、加工方法によりさらに特色に差がでてくる。スチームコーンは粒度が大きいためルーメン内滞留時間が長く、さらに加熱加工で発酵速度が高まり消化率が非常に良くなる。しかし、全粒やひき割では滞留時間が長いものの、発酵速度は遅いためにスチームコーンに比べて消化は悪く、しばしば未消化の全粒姿で排泄される。


一方、コーンミールは粒度が小さいために表面積が増えて発酵消化速度が速い反面、滞留時間は短くなりやすい。ルーメン内の流出速度やルーメンマットの形成状態に強い影響を受けるため、消化率に大きなバラツキが見られる。


すなわち、コーンミールの消化率は滞留時間が短い泌乳初期では低く、粗飼料が多くなり摂食量が減少して滞留時間が延長する泌乳後期では高められることになる。


「DCP・可消化蛋白質」の表示を廃止


年配の牛飼いに馴染みがある「DCP」が廃止された。NRC(米国国家研究会議家畜栄養委員会)は1978年に改定された飼養標準から、栄養要求量と飼料成分表に長年慣用してきた可消化粗蛋白質DCP表示を廃止し粗蛋白質CPのみとした。


我が国でも日本標準飼料成分表が飼養標準の一環として改訂され、DCPは01年版から表示を取りやめた。豚および鶏では蛋白質の要求量をCPおよびアミノ酸が主体。牛はCPで表示してルーメン内で消化される蛋白質と消化されないバイパス蛋白質を登場させた。


牛もルーメンを通過(バイパス)した未消化の飼料は小腸において乳牛自身の消化酵素によって消化され、さらに大腸において微生物による発酵消化を受けるわけだが、言うまでもなく主力はルーメン発酵である。 昔は牛の左脇腹に穴を空けて直接ルーメン内から飼料を出し入れして消化率を研究してきたが、現在は動物福祉の問題から出来るだけ人口ルーメンを活用している。


先に述べたようにルーメン内滞留時間に消化率は支配される。特に消化率が低い繊維飼料の消化率を少しでも向上させるために滞留時間を延長させる。そのために、巨大な消化発酵槽、すなわちルーメンが必須となる。これが反芻動物の特異性でもあり、高価な濃厚飼料と安価な粗飼料の効率良き献立給与によって消化率と生産効率を向上させ、コストダウンへの道を歩まねばならない。


もとより、糞の形、性状、色、臭いなどはエサの質や量および消化管内の状況を反映したものである。栄養濃度が高くなると滞留時間が短縮されるため糞は軟らかくなる。逆に繊維の多いエサの場合は硬くなる。


養分的には蛋白を余分に与えた場合は糞の色は黒みがかるし、澱粉過多でアシドーシスを起こしている場合は灰白色になる。臭いは、糞に未消化の穀物が混ざるようなら酸臭、蛋白窒素過剰でアンモニアが排泄されるとアンモニア臭が牛舎に充満する。


これらの症状は、いずれも消化率が低下し、過食の傾向や体調不良を訴えているわけだ。経済効率と共に飼料献立のチェックが必要である。

本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。

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