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搾乳時の衛生管理(2) カップの湿り気を除去 搾乳前後のディッピング 無菌乳生産も可能

2003-10-01

ミルカーのティートカップ(ライナーゴム)の消毒について検討してみよう。


私が今年行ったアンケート調査では、48%の酪農家が現在でも一頭毎搾乳が終るたびにティートカップを消毒液の中に5~6回上げ下げして浸漬と取り出しを繰り返し、濡れたまま次の搾乳牛の乳頭に装着していた。乳頭も清拭と消毒を濡れた布で行って乳頭も濡れたまま搾乳していた。


自他ともに一頭毎の「消毒」には「安心」が得られるので現在でも続行している酪農家が半数居るわけなのだろう。


また、他人が搾乳している所を見学したことがある酪農家はわずか18%で殆どが誰からも批判されることもなく我流ですごしていた。


研究熱心な組合は搾乳衛生を現場で指導し、耐熱菌検査を実施して、低温殺菌乳を生協に供給し高乳価を配当している。


乳頭も人の手指と同じ皮膚から形成されているが、先月「手洗い」の科学で紹介したように生身の体の一部である皮膚の消毒には限界があること。


特に食中毒や乳房炎の原因菌である黄色ブドウ球菌(アレウス)や大腸菌が皮膚組織内に生息し除菌を妨げて人の手から牛の乳頭へと感染源となるので手術する医者が手袋を着用するように搾乳時には消毒済み手袋を着用しなければならない。


乳頭も皮膚表面に付着する細菌は洗い流せるが、ひび割れや擦り傷には頑固に菌が住み込み皮膚組織を剥離しない限り除菌は不可能だ。


しばしば「握り飯」で食中毒が発生するが、その原因は脱脂粉乳加工低脂肪乳による食中毒菌と同じ黄色ブドウ球菌(SA菌)だ。握る素手に生き延びていたSA菌は「飯」の水分60%、温度45℃、栄養100%、細菌培養三大条件満点の「飯」に入り、食べるまでの時間経過中、15分毎に倍々に分裂増菌する。


1個のSAは5時間後に100万個、6時間後に1600万個に増大。200万個を越える頃から耐熱性腸毒素エンテロトキシンが生成される。食品用手袋を着用するか2つの茶碗で握って感染を防止しよう。


搾乳で重要な乳頭は人の手より更に汚染が激しい下腹部に下垂し、糞尿に汚染された牛床に直に接触し汚物が固着していて乳頭の除菌は人の手より困難だ。4本の乳頭に手袋を着用も出来ず、乳頭を包み込む被膜でも開発できると良いのだが。搾乳前後のディッピングがこれに相当する対策だ。


ロボット搾乳は高嶺の花だが、機械化された搾乳衛生管理は合理的に行われ、4本のアームが前搾捨乳に始まって乳頭清拭・消毒・乾燥を確実に実施し、ティートカップライナーは蒸気殺菌・乾燥を逐次行って搾乳開始となる。


乳頭とライナーが消毒と完璧に乾燥した状態で装着されるので両者は密着してスリップ現象がなく細菌汚染のチャンスが少ない。


黄色ブドウ球菌の調査結果は


酪農家のバルク乳の4割から検出され1000個以上が13%、1万個以上が5%も汚染され、検出されなかった6割の中からも繰り返しの検査で間欠的に発見される。


これは乳腺細胞の中で生存していて体細胞内で生き延び体細胞の脱落と共に俳菌されるので厄介な細菌だ。これらの合乳であるローリー乳では9割で検出されている。


乳房マッサージの時代


30年前頃は乳頭より乳房をマッサージすることでオキシトシンの分泌が促進されると考えて、乳房を熱湯で湿布し力任せで揉んだものだ。


乳房の毛刈りもやらず汚物がこびり付いていたので、乳房からヘドロ状の汚水が滴り落ちた。欧米の酪農家も同様であったようで(マジックウォーター)という業界用語まで誕生していた。


この汚水は乳頭に集結し搾乳中に乳頭とカップ装着部からマジックのように姿を消した。バルク乳の中へ姿を消した汚水は5℃を発育適温とする低温菌郡の巣窟で、バルク乳内で増菌しながら耐熱性の蛋白・脂肪分解酵素を産生する。


その結果、殺菌牛乳パック内で耐熱酵素が乳成分を分解し異常風味乳となり、しばしば学童達からのクレーム申し立てを最近でも耳にする。


現在は乳頭だけを刺激することでオキシトシンが分泌されることは理解され、まず前搾捨て乳を完璧に実施し次いで乳頭を清拭するだけになり、痛がる乳房を揉む人は見られなくなった。


乳頭とライナーは乾燥させて装着!!


9年前に搾乳現場で細菌汚染を最小限に抑制できる搾乳法を求めて、鯉渕学園酪農場で共同実験を行って、その結果を翌年イスラエルで開催された国際酪農連盟の乳房炎セミナーで報告したので紹介する。


ティートカップは一頭毎消毒液に漬けて濡らしたまま次の牛に装着すると、ライナーを乾燥させて装着したときの4~5倍の細菌数となった。消毒したはずだが逆効果であった。実用面からは消毒したカップを乾燥させる装置もないので搾乳終了と共に離脱させたカップをそのまま(消毒しないので気がとがめたが)次の牛の乳頭に装着することになるのだが、細菌数は増加しなかった。


ここで注意すべきは、カップ離脱後つぎに移動する時にカップを下にクローを逆さに上にすることで、しばしばクロー内の残乳がライナーに逆流し乳汁で濡らしたまま装着することになる。


そこでライナーをカップ乳で濡らさぬようカップ離脱時にはクローのバルブを確実に開いてクロー内に乳を残さぬように吸引させて運搬する。できるだけカップを上にクローは下に離脱のまま移動させたい。


乳頭も濡れたままカップを装着した場合は、ペーパータオルか乾いた殺菌布で乾燥させた時の2~3倍の大腸菌が検出された。


乳頭やカップが濡れたままで搾乳すると、乳頭皮膚に生息していた黄色ブドウ球菌等が乳頭側面を下降して乳頭穴周辺に吸引され、搾乳終了時には乳槽が空洞になり更に過搾乳状態になると乳槽内が陰圧となって開孔したままの乳頭穴より逆噴射(ドロップレッソ)現象となって集結した病原菌が乳腺内部まで吸引されて乳房炎の誘因になる。


搾乳終了時は1㌔ぐらいの残乳があったほうが無難で空搾乳(過搾乳)は厳禁である。


乳は本来無菌で生産される


酪農家の多くが乳房炎乳は細菌が多いものと思い込んでいるようだ。


炎症には体細胞が敏感に急増するが、細菌は乳房炎乳の3割で検出できない。黄色ブドウ球菌などは食菌細胞に食われてもその体細胞の中で生存し、細胞が流出し死滅すると再び活躍する不敵な細菌である。


牛乳は、前搾り乳は細菌が巣くっているが、搾乳中横取りして検査すると殆ど細菌が発見されず、無菌乳が生産されている。搾乳後に汚染する細菌は環境に充満していて、人為的管理の差が明らかになってくる。


酪農家の手・乳頭・搾乳器具を汚染する病原菌や低温・高温菌など細菌の絶対量を、牛床・尿溝・運動場など畜舎環境全域から日常的に除菌・減量させて行くシステムが確立されねばならない。


養鶏場は薬漬けのきらいはあるが、コンピューター仕掛けで衛生管理が充実している。酪農界はようやく搾乳前後のディッピングが定着し乳頭壁の細菌を減量させることに成功した。搾乳後の人為的管理の良否が牛乳中の細菌数に反映されてくる。


その結果、大腸菌「ゼロ」、細菌数3000以下という無殺菌の特別牛乳を限定販売できる牧場が次々誕生している。

本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。

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