後継者、酪農女性に贈る牛飼い哲学と基礎技術
連載47
兎について学ぼう 牛はルーメン発酵、兎は大腸発酵 セルローズを肉蛋白に転換肉としての利用価値大
宮崎では、過去に牛の口蹄疫が発生したが、今回は鳥インフルエンザでまたまた苦労されている。
インドネシアに行っていた私は、宮崎の鳥インフルエンザ発生のニュースは、赤道直下のスラウェシ島の山中にてNHKの国際放送で耳にした。
私が出国するときにはすでにインドネシアで50人以上の鳥インフルエンザによる感染死亡者が出ていた。人口が一番密集しているジャワ島、特に首都ジャカルタ周辺で発生していることを承知していた。
さらに、渡り鳥の交流が激しい同じ海洋国で、鳥類愛好家がいまだ毎週鳴鳥声コンクールを継続的に開催していた。各農家には放し飼いの赤色野鶏もどきやアイガモが駆けずり回っているインドネシアでは道路端には「解体鶏売ります」の看板を目にした。
当局発表では、この解体鶏の2割で鳥インフルエンザの反応が陽性だったという。法的補償制度が確立していないアジア諸国では、感染症防疫体制が遅れがちである。
豚を拒否するイスラム圏では高価な牛肉は高嶺の花。鶏肉は、鳥インフルエンザ対策として、身近な鳩まで処分する現場がテレビで毎日放映されていた。その影響で、鶏スープ、焼き鳥の売れ行きは減退し、鶏肉は半値に暴落した。
一方、グルメで名高いジャワ・バンドン料理でもある兎(うさぎ)料理がインドネシア各地で目撃されるようになった。ジャワ以外のバザールの中にある露店でも足を縛られ、売れ残っている生鶏の横で子兎が売られるようになった。
私は敗戦当時、町の中で兎を肉資源として飼育していた。数え方は「~羽」であった。前置きから兎の話がどう牛に繋がるか察することができましたか?
牛のルーメン発酵と兎の食糞習性(大腸発酵)
兎は自分が排泄したばかりのホヤホヤの糞便を食べる食糞習性がある。まさかとの思いからあまり知られていない。反芻をしない単胃動物である兎や馬が、反芻胃をもつ牛のようにセルローズを消化吸収するためには、大腸でルーメン発酵と同じように大腸発酵を行って、消化吸収をしている。
くどく述べてきたように、牛はセルローズ性の飼料を動物自身では消化吸収できないが、牛のルーメン内微生物の嫌気性無酸素分解で飼料を不完全に分解し、酢酸、プロピオン酸、酪酸というVAFを生成する。
宿主動物である牛は、このVAFを好気性酸素の作用で水にまで完全に分解することで生じたエネルギーを牛自身の生命維持源にする。
しかし、発酵にはロスが付き物で、飼料本来が所有するエネルギーの1割強が主として地球温暖化の一因たるメタンガスとなる。メタンガスはゲップとして牛の口から吐き出される。
また、発酵熱として1割弱を損失する。したがって、牛自身が利用できる発酵産物は70~85%である。
さらに、家畜化される以前の野生時代には滅多に摂取できなかった穀類、でん粉をもセルローズ同様に発酵して、プロピオン酸(VFA)としてしまう発酵ロスが生じている。
本来、穀類、でん粉は発酵させる必要はない。唾液の消化酵素(アミラーゼなど)で簡単にブドウ糖に分解吸収され、でん粉、ヨード反応で確認できる。
ルーメン発酵でエネルギーを損失する穀類、でん粉、さらに蛋白質が胃と小腸で発酵によらず消化酵素によって消化吸収される。残存した未消化成分は大腸に滞留して微生物の働きによる発酵作用をうける。
ルーメン発酵と同じく、大腸発酵により繁殖した微生物の体細胞が良質の菌体蛋白質としてそのまま直接利用されれば理想的だ。しかし、大腸の隣は肛門であって、菌体蛋白質は糞中に排泄されて利用されない。
この大腸発酵の弱点は穀類、でん粉よりもセルローズ性の飼料に依存せざるを得ない野生性が豊な兎が解決していた。
つまり、兎は食糞習性によって自身の排泄した糞中の良質菌体蛋白質を摂食し、発酵がもたらす有効成果をすべて回収利用している。
ルーメンと大腸発酵時間の差
ルーメン発酵は、巨大な前胃(ルーメン)が発酵槽となり、長い時間飼料滞留させる。藁のような発酵を遅滞させる繊維部分などを発酵させ、微生物繁殖を促進。最終的にはその菌体蛋白を後胃と腸で消化吸収している。
また、飼料中の蛋白質も発酵分解されるが、でん粉、穀類単体より蛋白質が混合されている方が繁殖する微生物、菌体蛋白質の成生量が多くなる。
さらに、2胃、3胃への移行部は狭窄し、ルーメン内滞留を長期化している。規則的な反芻作用を持続して恒常性を保持するには、やはりTMR混合飼料給与が理想的だ。
大腸は、ルーメンに比べると小さ過ぎるし。反芻しないため、大腸発酵の場合は滞留時間が短い。例えば、馬は質が劣る草地であっても、大腸内滞留時間が短いことが幸いして通過速度が速い分だけ摂取量が増加する。そのため、飼料の消化率は低下していても結果的には増体傾向を保っている。
しかし、反芻動物は飼料通過速度が遅く、消化率が高くても摂取量が少ないため、体重は減少したと報告されている。
小柄な兎でも牛とともに人類が利用できないセルローズ類を肉蛋白に転換する。手軽なジャワ料理などの美味食品として見直すとともに、まがい物のでん粉を添加するよりもソーセージなどの練り物などへ、肉そのものへの利用を復活させたい。
また、石油危機の時に研究された、鶏糞や豚糞の飼料化、特に養殖魚や養殖海老などへの利用も再現したい。
本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。