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損失乳量はいくら? 発情発見が繁殖の原点 繁殖遅延で年間1頭10万円40頭で400万円の損失

2006-06-01

先月号で畜産本来の生き様は、土地に立脚し、土に根が生えた農業本来の姿を見直そうと述べたが、すでにBSEなどで知られたOIE(国際獣疫事務局)をはじめ、畜産先進国である北欧諸国は土地所有面積に見合った経済規模を維持し、繋ぎ方式でも必ず牛に土を踏ませる飼養管理を義務付けている。


また、土地への過剰堆肥の放出等を禁じると共に牛そのものへの動物福祉も義務付けている。すなわち、家畜も人も健康と福祉は一体と考えられている。


一方、土地から離脱して草まで輸入する我が国の現状を見ると、最近は受胎率が悪くなってきている。「未経験の種付けが早くなり初産分娩が若すぎ、産乳量が増加したから、発情がこない」と言う人もいる。「牛がおとなしくなって吼えるような泣き声が聞かれない」「多頭化により運動場へ出す時間的余裕が無く、年中繋ぎっぱなしだから太陽の恩恵も少なくなり、発情が弱くなったようだ」など、ぶつぶつ愚痴をこぼすようになった。


多くの酪農家が「種さえ順調に付けば儲かるのになぁ!」と弱音を吐いている。しかし、繁殖が遅れたために、どのくらい損しているかを即答できる人は少ない。損したと思うだけでは、負け犬同然だ。この経済的損失を十分に把握すると、発情見送り、見逃しなどがもたらす弊害をしっかり認識させられて、その原因を徹底的に追究し、解決する意欲が湧いてくるはずである。「お札」が懸かってますから。


まず、損失乳量を算出してみよう。分娩間隔が多くの酪農家が440日位で1年1産の365日はともかく、目標を380日とすると60日間は遅延していることになる。すると、損失乳量は出産直後の産乳量が順調ならば30㌔以上であり、仮に35㌔とすると60日で2100㌔となる。


これに対して、不受胎で妊娠60日の遅延は泌乳曲線の泌乳末期に相当するので産乳量は日産15㌔×60日=900㌔、両者の乳量差は1200㌔となる。これを年間に換算すると、乳量差1200㌔×1年365日=43万8千㌔。これを分娩間隔440日で割ると995㌔、約1千㌔の乳量損失となる。


この乳代に上乗せされる授精回数増・診療費等の出資金額が加算されるから少なくとも10万円損失となる。分娩間隔は牧場全頭の繁殖成績の平均を反映しているから、成牛頭数を掛け合わせねばならない。平均40頭とすると、総額400万円もの損失となる。


東京農工大学の田中助教授は講演の中で「初産牛の種付けが難航、原因は複合汚染」と述べた。その要旨を紹介しながら酪農家が早速取り組めることがらを紹介したい。


分娩間隔が20年前頃の390日から近年は440日へと50日も延長され、この傾向は産乳量が6千㌔ベースから図表的には右肩上がりに増加し、現在の1万㌔ベースへと急増した事実と重なっている。


だからといって、乳量が直接的に繁殖を抑制しているわけではない。その証拠に1万㌔レベルでも順調に受胎させている酪農家も少なくない。この辺りを栄養面から解析して人の糖尿病と関係するインシュリンや血糖などと消化系である肝臓内の血流と卵巣ホルモンを追跡して受胎率低下を追及している。産前にグリセリンを1週間飲ませると血糖が改善され,周産期病が激減する。投与する労力を惜しまないでもらいたい。


まず、10年前頃から初産牛の受胎率が低下し産後の初回排卵日が10日以上遅れて産後32日頃となり、2産の29日、多産は17日と半月の遅れが生じてきた。初回排卵は、黄体の存在から判断するので外見からの判断は困難。直検するか超音波エコー診断が活躍している。


また、雄を許容するスタンディング発情、すなわち真の「発情」を分析集計した結果、産後の初回発情はさらに遅れて産後60日を過ぎても牛郡の4割(初産牛28%、多産牛15%)が無発情で種付け出来ない状況である。初産牛は、あまり乳量が出なかった時代は産後20前後には早々と種付けが出来て、また良く受胎したものだ。


近年は多産より初産は発情来潮が遅れる逆転現象が生じている。初回排卵が遅延した結果、初回発情はさらに遅れた。それにより、従来の感覚では発情発見が困難に。経産牛の受胎率は10%も低下し44%になった。


一方、未経産牛は60%台の好成績を維持しており、旧来と変わらぬ受胎率で対照的である。経産牛は乾乳期と泌乳への切り替えで急変、続いて乳量の急増と発情との間に密接な関係がある、周産期である分娩前後のエネルギー源である「給餌」、すなわち栄養状態のバランスが乱れ、産後の卵巣周期再開(発情・排卵)が遅延している。


その内訳は無発情期が10日以上、初回排卵が産後43日前後となって古い人工授精教科書の記述からは2週間遅れている。


スタンディング発情時間の乱丁


「発情」そのものの持続時間(マウンティング、すなわちお互いの牛同士が乗駕し合うのは発情の二次的兆候で、真の発情は、雄許容スタンディングといい、発情牛が足を踏ん張って他の牛を背に乗せ続ける状態を20~30分間隔で発動する)が短縮される。


さらにスタンディング(雄許容)そのものが不明瞭となって酪農経営の多頭化の流れと共に酪農家は発情を見逃すか、見つけても繋ぎとめるまでに時間切れとなっている。


繋ぎ方式では運動場への出し入れが労力不足で出来ず、さらには繋留状態ではスタンディングは牛そのものが束縛されているので発現困難となって発見が難しい。また、フリー行動が主眼の開放型でも蹄病とコンクリート床ではやっと歩行している状態で仲間の牛を背に乗せる体力が無く発動に難渋している。


発情持続時間は旧来の人口受精教科書では15~27時間となっていたが、近年は日産乳量が25㌔で15時間、33㌔で10時間、37㌔で6時間、45㌔で5時間、50㌔以上で2時間50分だという。


平均して初産牛は9時間、多産牛で8時間の目安であるが、スーパーカウ・クラスは数時間の発情であるから経営者の腕の見せ所になっている。


北欧式に土地や人畜共どもが循環型農業を永続させて、自然の恩恵を有効に利用し消費者も生産者の顔が見える消費活動が展開され、もったいない牛乳の廃棄処分など生じない交流を日本的酪農で構築せねば輸入病の再襲が降り注ぐばかりだ。

本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。

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