後継者、酪農女性に贈る牛飼い哲学と基礎技術
連載40
イスラエルに学ぶ 魚粉は優れたタンパク源 免疫高める動物性蛋白乳牛飼料への解禁望む
海洋民族日本人が鯨を食糧にすることは全く野蛮な好意だと毎年糾弾され続けて来た捕鯨問題国際会議の雰囲気が、今年はじめて1票の差ながらも逆転した。鯨をあくまでも捕獲禁止にすべきだと主張し続ける欧米のいわゆる畜産先進国にたいし、海洋には縁が無い国の参加によって逆転したようだ。
日本人でも最近は鯨を食糧にするなど野蛮な行為だと考える階層が増加しているし、鯨を食べたことがない人がすでに2割以上いるとのこと。ましてやアメリカの捕鯨船が日本近海へ進出して開国を迫って黒船騒動を起してまで、工業用の鯨油を採取し、搾り粕は廃棄していたことは殆ど知られていない。
外国からは鯨を食べることは哺乳動物の虐待と非難され続けている。しかし、日本人は鯨を丸ごと一切残すことなく、魚同様に胃袋に収めてきた。鯨の頭蓋骨酒粕漬け(蕪骨の缶詰め)脂身の晒し鯨などなど。
一方、牛は草食動物だから牧草を食っていればよいはずだが、同じ草食でさらに反芻動物の「迷える子羊」をまさに「共食い」させた結果、BSEの大発生を海洋民族であった英国で招くに至った。
乳牛飼料へ魚粉の解禁を
11年前イスラエル酪農を見学し、農業共同体であるキブツの牧場に隣接する養鶏場を視察した。狭い国土で効率よく高級かつ濃密な食品を生産するには、日本同様、養鶏と酪農に限るとする点に共鳴した。
イスラエルの国民1人当たりの鶏卵消費量は日本を越えて世界一であり、乳牛1頭当たりの搾乳量は乳脂率を3.1%と低く抑え、蛋白質にウエイトを置く。さらに乳量を追求して3回搾乳を定着させていて、成牛1頭当たりの年間搾乳量は1万177㌔で世界一であった。
これらを現地で確認し、さらに10年後の現在でも我が国において再現したいのが「鶏糞・豚糞」の飼料化と、BSE以前は当たり前に使用していた「魚粉」(糞と粉か?)の乳牛用飼料への解禁を願うものである。
豚糞や鶏糞はDDT・BHCが全盛期の頃、私は飼料に3割混合し殺菌を兼ねて発酵させて養豚を利用した。発酵未確認成長因子の効力で肉質・飼料効率の向上、さらに畜産公害である糞尿の減少に貢献してもらった。
だが、当時は「糞を食った豚肉」との感情論が先行して中断させられた。
しかし、イスラエルでは鶏糞が乳牛のTMR飼料として活躍し続けていた。特に牛自身は反芻によるルーメン発酵でVFA生成、酢酸、エネルギーを多量に生成させている。まさに堆肥作りの切り返しによる連続発酵の全自動装置化である。
豚糞に関しては、ユダヤ教とイスラム教ともども仲良く禁句であるが。イスラエルは狭い土地で各種宗派がひしめいている。キリスト教を信仰しているキブツには養豚場がある。
化学薬品万能時代のベトナム戦争で、枯葉作戦に使用した「ダイオキシン」は、分解難物のBHCの更なる人工的怪物としてブラックリストの最右翼にあるが、いやがられる「糞」は食べても死なず、大根の肥料と同じく家畜の飼料化で循環持続型リサイクルが可能な天然・自然物であり未確認生育因子の塊である。
魚粉はBSE対策で非哺乳動物であるにもかかわらず羊同様の肉骨粉扱いである。理由は「粉であるから簡単に肉骨粉が添加される危険性がある」とされた。全頭検査は金と手間の無駄遣いと批判を浴びているが、全頭検査によって肉骨粉はすでにBSE完全フリーが保障されていて、この肉骨粉が魚粉に万が一添加されたとしてもBSEとは無縁である。
したがって、国産魚粉の復活・解禁を望む。魚粉は植物蛋白質からは得難い貴重な動物性必須蛋白質・アミノ酸の宝庫である。また、メチオニン・リジンが多量に安価で供給される。さらに魚粉はルーメン発酵で花形になった可溶性蛋白(RDP)に対する非溶性蛋白(UDP)・バイパス蛋白が主力でルーメンを通過して腸管から消化・吸収され、乳量・乳質が顕著に改善される。
英国は可溶性蛋白飼料である牧草を主体とする荘園畜産の飼養形態である。また、羊大国でもあり、魚ならぬバイパス蛋白を手近な羊に、しかも羊のBSE(スクレイピー)で死んだ羊に手を出したことが思わぬ弊害をもたらしてしまった。
先日TVで、アメリカ大陸をメキシコからカナダまで世代を交代しながら往復する渡り蝶・オオカバマダラ(黄金蝶)の回遊が放映されていた。圧巻は牧草地に群がり、乱舞する蝶を放牧牛達が夢中で捕食している映像であった。家畜とはいえ、放牧牛は自然の欲求で動物性蛋白をパクついていた。血液製剤のように動物蛋白には免疫を高める効果も認められている。
イスラエルを訪問した時は、海洋バイキング族の故郷・北欧でBSE騒ぎが最盛期だった。彼らは牛の胎児の脳みそまでハンバーガーにして食いつくしていたが、恐怖のどん底の中で乳牛に迷える子羊を共食いさせた神罰とばかりに魚粉も動物性蛋白だからと飼料化禁止とした。
一方、砂漠育ちのイスラエルキブツでは安くなった魚粉を買い占めて鶏糞と一緒に牛に給与して、成果を上げていた。その当時は、まさか海洋国日本が北欧に追随してまで魚粉禁止になるとは思いもしなかった。
共食いと言っても、草食動物のキリンが長い首で平和の象徴である鳩をパクリと捕食する。あるいは、牛が後産を一飲みする姿をしばしば目撃する。人間の世界では、胎盤は産後の活力源と考え、若返り効果(免疫)があるとして皮下へ埋没させたものだ。
魚の発生過程を見ると、植物プランクトンの化身である。牛糞を養魚にも活用している向きもある。魚粉は品質のバラツキが大きく、変敗しやすいので、原産地表示を徹底させて、成分及び品質の明らかな国内製品を有効活用したい。BSEとは無関係な魚粉の冤罪を晴らし、乳牛飼料への使用を解禁させてアミノ酸バランスとバイパス消化吸収性を発揮させ、乳牛の繁殖などの向上を期待したい。
本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。