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デンプンとタンパク質 反芻回数は健康シグナル ルーメン内菌体タンパク質糖、デンプンの活用で増産

2007-12-01

炭水化物は主要なエネルギー源で、牛の場合は飼料の過半数から80%、人は摂食カロリーのほぼ60%を占めている。


炭水化物は植物細胞内貯蔵物に代表されるブドウ糖=単糖類や、多糖類=貯蔵性=非繊維のデンプン、および植物体の構成物であり構造性と称する繊維であるペクチン・ヘミセルロース、セルロース、リグニンに大別される。炭水化物の消化率は糖<デンプン<ペクチン<ヘミセルロース<セルロースの順で、消化率がほぼ100%の糖から殆ど0%のリグニンに至る。


消化のスピードは1時間当たり300%(20分で消化)と迅速に消化される糖(砂糖、蔗糖)から数日がかり(時間当たり数%)のセルロースの順で消化時間にも大差がある。


また、同じデンプンも、小麦<大麦<燕麦<コーン<マイロの順で約2時間から10時間へと消化時間は長くなる。


タンパク質のルーメン内消化は、給餌してから1~2時間後に最高となり、デンプンは2~4時間目が最高になる。したがって飼料を分離給与する時は、タンパク質を先行給与するとアンモニアが生成されてもデンプンからのエネルギーが供給されない。


すると、アンモニアから微生物体タンパク質への再合成が不十分となり、未利用のアンモニアはルーメン壁から血中へ吸収。血流で肝臓へ運ばれ、尿素に変成され、血中および乳中尿素態窒素となる。そして、尿、乳から排除され給与飼料タンパク質が無駄になる。


そこで、デンプンを先に給与し、ルーメン内で消化・分解を促進させてから、タンパク質飼料を給与し、両者の消化のピークを同調させると微生物体タンパク質への再合成が順調に進行して生成量は最高となる。


飼料を蒸煮フレーク状加工や、粉砕加工で細かくするほど発酵消化が早まり、さらに水分含量が多いほど発酵は早まる。ただし、TMRを給餌した時と同様、水分は60%を越えると逆効果となる。


また、省力管理などで1日分を1回給与でデンプン類を先行給与すると、ルーメン内のPHが急速に低下して食い止まりや食滞、過食による大麦中毒など、アシドーシスを発症する。また、デンプンとの同調給与を失したタンパク質給餌からは、アンモニア中毒を発症し、いずれも人為的な給与飼料により死を招くこともある。


NFCとタンパク質の同期=ドッキング


炭水化物の発酵スピードが同じレベルではデンプンが最も微生物体タンパク質の合成を活性化させる。デンプンの発酵で産生された微生物体タンパク質量を100とすると、ペクチンで88、ショ糖で86となる。


可溶性繊維のペクチンは一般には数%と少ないが、みかん粕やビートパルプ(18%)には多い。このペクチンはタイムラグ(実際に発酵するまでの時間)が短く、すばやく発酵。デンプンの発酵が始まる前にピークを迎えて低下するが、デンプンはNFC(非繊維炭水化物)の中でも最もタイムラグが長く、ペクチンの後にピークが来る。これらの発酵パターンが微生物体タンパク質の再合成と重なり、発酵が同調して合成量が多くなる。


無機窒素NPN=尿素と糖の復権を


ルーメン内にチッ素化合物が有機物タンパク質という形で入ろうが、無機物・非タンパク態チッ素=尿素の形で給与されようが最終的には、微生物体タンパク質の再生成という形で有効利用される。「ルーメン内の微生物の活動が十分に保たれているならば、アンモニアや尿素など嫌われ者のチッ素化合物も、有機タンパク質に再生され、生命維持の真のタンパク質と同様に利用される」。これこそ乳牛などの反芻動物の最大の特徴である。


この特徴をふまえNPN(Non Protein Nitorogen=非タンパク態チッ素)である尿素は、約46%のチッ素を含んでおり、これをタンパク質に換算すると、大豆粕タンパク質の6倍に相当する。そのため、大豆粕の代用として尿素を少量与えればよい訳である。


配合飼料が登場する前の昭和30年代の酪農勃興期に、糖蜜(モラシス)に尿素(ウレア)を添加した「モレア」が米国で紹介された。高価な大豆粕に代用するため、身近な肥料用尿素を飼料に添加したが、入手困難な糖蜜の添加ができず、次々と尿素中毒を発症させた。尿素中毒は、言葉だけが今も生き残り、NPNや糞尿などのチッ素利用が忘れられてきた。


国土が狭いイスラエルでは、鶏糞にペクチンが多いみかん粕を添加してサイレージ化して給与し、固体乳量で好成績をあげている。飼料高騰の今こそ、この辺も見直すべきだろう。


糖の給与は嗜好性を上げるだけでなく、ルーメン内での発酵が1時間当たり300%と早い。また、糖は尿素の1時間あたりの分解速度300%と同期しているため、糖の添加はルーメン内のアンモニア濃度の低下、すなわち微生物増殖・菌体タンパク質生成に利用される。


産後のケトージスなどの栄養障害では、黒砂糖400㌘ほど投与したものだが、この糖の投与は最近禁止されたプロピレングリコールに代わったグリセリンが使用されている。


今年のNOSAI診療所獣医師の全国技術研究発表会で宮崎県NOSAI西諸・高原診療所の佐藤知宏獣医師が「砂糖給与による黒毛和種子牛の発育改善効果」を発表した。それによると、体重1㌔に対し市販の砂糖1㌘を週2回、8週間投与した結果、発育不良牛のDG(Daily Gain=1日増体重)を0・48㌔から1・26㌔へと2・5倍以上改善させた。


一般的に育成期や乾乳期は飼料バランスが失調期になりがちである。そんな時は砂糖を添加するなど、ルーメン生理の活性化を検証せられたい。


「まとめ」ルーメン発酵を最適にし、微生物菌体タンパク質を最高量生成させるには、最初に良質乾草を1㌔給与→穀類を2~3㌔ずつ分割給与→次いでタンパク質飼料をほぼデンプンの6分の1ずつ給与→コーンサイレージ→乾草給与→給餌作業終了後一休みしたら牛体を観察する。


その際、特に反芻回数を観察して欲しい。反芻(口の中で吐き戻し噛み返す1回分)の回数は、多過ぎず少な過ぎず55回くらいがいい。


体温や反芻回数の測定は牛自らが発信している健康シグナルであり、客観的に判断できる。


乳牛は1日8時間の反芻時間、食べるのに5時間、搾乳に3~4時間必要なので、牛舎に戻る牛は50~60%が反芻していなければならない。


ルーメン内撹拌機能性繊維が十分であると思えても(15%の飼料が3・8㌢以上であっても)、1~1・5㌔の長い粗飼料を給与する。

本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。

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