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生産現場のHACCP②
バルク乳、飲める乳質か 手抜き、欠陥数字で明確に 簡便な大腸菌測定

2003-06-01

生産現場におけるHACCP(危害分析・重要管理点監視方式)実践への近道。


この近道に「大腸菌」と再びブームを巻き起こしている「手づくりカスピ海ヨーグルト」をあげることができる。


実家が酪農家の学生の多くが、いまだにパック入りの牛乳は飲んでも、実家のバルク乳や自分が当番で搾った学園農場の「搾りたて」を飲もうとしない。また、今年2月の酪農協主催の乳質優秀者表彰式に出席した人たちですら、私のアンケート調査では4割の酪農家が自家産牛乳を自らは「口」にしていなかった。だが「手づくりカスピ海ヨーグルト」を毎日飲んでいる人はフリーストール牛舎数より一人多く、1割に達していた。


自分が搾った牛乳をなぜ飲まずに、代金を支払ってまで市販のパック乳は飲めるのか? 一方「こだわり」牛乳、すなわち当日搾乳当日販売と産直の強みを生かした限定販売を開始した組合が誕生している(「こだわり」牛乳は、品質に特段の良き実績が継続されているので実現できた)。


市販牛乳はメーカーが殺菌し、製造者責任法で品質も保障されているから、安心安全だから購入して飲む。自分が搾った牛乳は「不安」があるから「飲めない」。市販の市乳は食品衛生法の規則に従って製造され販売されている。市乳の細菌数は5万以下、特別牛乳は3万以下と規定されている。この数字を見て、わが牧場のバルク乳の細菌数と比較して「オヤッ」と思う人がほとんどだろう。なぜならバルク乳の細菌数は数千をキープできているのだから。


<最終製品の品質が規則をクリアーすれば良いという旧来の考え方では、原乳の細菌数が400万以下なら工場の殺菌能力(99%以上殺菌)で充分に5万以下の市乳が製造できる>


HACCP時代の酪農家は、まじに400万では腐敗していただろうと驚嘆し、安全食品を消費者に届けるには生産現場のバルク乳そのものから菌数の少ない原乳を出荷するのは当然だと、すでにHACCPを定着させている。生産組合は自主規制を設け、細菌数は数万以下とし、ほとんどの酪農家がこれをクリアーしている。


しかし市乳の法令には「大腸菌」は陰性とある。大腸菌は0157→これを逆に読んで75度1分で「0」となる。だから75度の加熱調理が徹底し、大腸菌0157中毒は激減した。夏は海水浴場の大腸菌数が公表されるし、市販の乳製品等から大腸菌が検出されると、営業停止・工場操業停止など酪農界や消費者に波紋を投げかける。


「大腸菌」はどこから侵入したのか?「大腸菌」は主としてどこに生息しているのか?


ほとんどの酪農家がこの「大腸菌」の由来を充分承知しているからこそ、自分が搾った牛乳が飲めないわけになる。


搾乳終了時の牛乳濾過用の白いフィルターが黄変し、なかには明らかに糞塊をみとめる例を目撃する。


糞1㌘中の細菌数はヒトでは1兆個、牛は糞量が莫大で水分も多いので100億(10の10乗)位ある。細菌は肉眼だけでは確認できないが、牛1頭分の総重量だけでも数㌔㌘に達する。大腸菌もこのなかに共生しているわけで、菌名にたがわず糞中の主力細菌で糞の1㌘中に1億(10の8乗)個は生存している。


毎日1㌧出荷しているバルク乳の中に1㌘の糞が混入すると、細菌数は・大腸菌数はどのくらいになるのだろうか?→1㌧の牛乳は100万㍉㍑(10の6乗)。1㌘の糞の細菌数100億(10の10乗)から、1㍉㍑中のバルク乳の細菌数は1万(10の10乗÷10の6乗=10の4乗)。同様に大腸菌数は100個(10の8乗÷10の6乗=10の2乗)という計算になる。


表示した大腸菌数は、学生達に、生産現場の衛生管理入門として肉眼ではみえない大腸菌を自らの手でサンプルを取り、細菌培養によって自分の目で簡単に牛乳中の菌数を実測させた結果である。


<大腸菌培養は無菌室やオートクレーブ(蒸気滅菌室)などがなくとも粉末培地と煮沸湯と1㍉㍑のピペットがあれば、冬はコタツ、夏は室温で実用的に測定できる。予算も1検体あたり100~300円(試験キット)で酪農家の庭先での指導で利用している>


表のようにバルク乳でも大腸菌が陰性「0」の酪農家が2割あって、バルク乳をそのまま市販できる高品質乳だ。さらに無殺菌乳が達成されている。鯉渕学園も学生が冬期ではあるが、入学して10ケ月を経て、新たに新入生を迎える仕上げの段階で好成績を発揮している。


しかしながら3千個以上という爆弾が1割、50個以上が4割を占めていること。特発したのか?常習者か?予告なしで測定してその結果を本人に知らせていると、自分でサンプル乳を持参して自分の改善結果を確認する人が現れる一方で、ペナルティを「とられてる」のだからと開き直り、最悪の方向に走る人もいる。


このような人に簡便な大腸菌測定で本人の目で確認してもらうと、かなり好転できる。なんといっても大腸菌は糞が混入している事を否定する酪農家は存在しないから、理解されやすい。


見学者に自信を持って「搾りたての旨いバルク乳」のガブ飲みをすすめていた酪農家が0157事件以来、万一を考えて自分は飲んでみせても見学者にはすすめない、という。


細菌培養で菌数や大腸菌数を調べて、搾乳行程のどこに欠陥があるのかチェックをしていると「手抜き」、例えば乳頭穴から汚物(糞)をほじくり出す、その刺激が搾乳刺激となることを怠ったのだろうと、「アラ」探しとなって精神衛生上、後味がどうもよろしくない。


学生達と細菌培養をしながら何か楽しめることはないかと思案しているときに、「きのこヨーグルト」「ケフィア」というヨーグルトが話題となり、また岡山農共済の指導で私の友人の開拓農場では子牛に手づくりの初乳ヨーグルトを給与し、下痢予防を試み、最近は「カスピ海」が登場。


ドイツの牧場を見学したときは初乳にホルマリンを添加してそのまま自然発酵させて哺乳していたが、ホルマリンを血乳などの治療に用いてはいても子牛の哺乳には気がすすまなかった。


いずれにしても、自然発酵でなく積極的に、ヨーグルトを添加して手づくりヨーグルトを発酵させ、試食の楽しみを学生達と味わうことになった。近年は「カスピ海ヨーグルト」が新段階を迎えている。次回に「ヨーグルトつくり」を述べる。


まとめ・・簡便な「大腸菌培養」で搾乳衛生のチェックを。

本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。

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