後継者、酪農女性に贈る牛飼い哲学と基礎技術
連載65
あなたのサイレージは? 成熟期間は4カ月間必要 成分は最高、最適値に
昨年、今年の夏は観測史上類を見ない高気温と集中豪雨をもたらし、この極端な気象異変は貴重な自給飼料であるサイレージの詰め込みに多大な被害をもたらした。人牛共に体力の消耗も激しいことだろう。
ここでマンネリ化傾向にある当欄を肩がこらず立ち読み気分で目を走らせて貰って、さらに欲深く「そうなんだよな」と気軽に賛同し、更にこっちの方がベターじゃないかと前向きの意見を聞かせてもらえるような「ひとくちメモ」を書いてみた。
私自身、赤道直下のインドネシアより多湿な日本に帰国し、夏バテ気味だが、皆さんに少しでも役立てられる話題が提供できれば幸いである。
サイレージの簡易評価法
1㍑ほどの透明ガラス容器にサイレージを約100㌘取り、水をほぼ満杯にしてよくかき混ぜ、約1時間後の上澄み液の色調を見る。
薄黄色、バージンオリーブオイル色なら品質が良好。醤油を薄めたような黒変液は不良品である。薩摩の芋づるサイレージは空気に触れると黒くなるが、この浸出液でも良質なものは淡黄色でビールを連想させる。良質サイレージは賞味期限が数年間にも及び、まさに「古漬け」の貫禄をしめす。
熟成サイレージの発酵期間は4カ月
米国の雑誌「Hoard’s Dairyman」は、4年間に2万件のコーンサイレージの成分・消化分析を行った会社の報告を載せているが、結論として熟成には4カ月の発酵期間を必要とする。この間に乾物量が25%から45%へ、蛋白質が3・8%から4・5%へ、乳酸、PH、有機酸が最高・最適値へ、酢酸は6カ月後まで増加していた。
一方、発酵源となる澱粉は減少した。補足だが、わが国の実情では、ほぼ詰め込み後1カ月で乳酸発酵はピークに達して活動は安定期となる。その後、熟成期に入って酵素によって繊維質が発酵分解され、良質の芳香を発するようになる。
飼料作物に付着する乳酸菌数
牧草に少なくコーンには多い。早春に少なく、夏から秋へピーク(数百万)となり、過酷な炎天下のエンシレージつくりも理にかなっているわけだ。乳酸菌は丸い球菌と棒状の桿菌に大別され、乳酸球菌は通性嫌気性の両刀使いで乳酸桿菌は嫌気性で球菌より乳酸生成量が多い。
サイロ詰め込み当初は球菌が活発に増殖し半月経過ごろ1億個に達し、サイロ内は嫌気性環境が形成される。皮肉なことに球菌は耐酸性が弱く、自らが生成した乳酸で雑菌とともに死滅。乳酸桿菌とバトンタッチする。幸いなことに桿菌は耐酸性で爆発的に増殖し、球菌より多量の乳酸を生成。詰め込み後ほぼ1カ月でPHが理想とする4以下に達する。
硝酸態窒素はサイレージで減少する
サイロ詰め込み直後のサイロ内の酸素・空気は植物体と微生物の呼吸作用で、数日間は好気性菌が増殖して高温になる。4日を迎えるとサイロ内は酸欠となり、植物に含まれる硝酸態(NO3)の酸素を利用する「硝酸呼吸」で数日間の生き延びを計る。この好気性菌は硝酸態を分解して酸素を生成し酸素呼吸をするが、同時に二酸化窒素、一酸化窒素を発生させ痛ましい酸欠による人身事故も突発させる。
酪酸発酵とサイレージとケトーシス&四変
乳酸そのものは無色透明で無臭であるが、酪酸は無色透明だが独特の悪臭の液体で微量でも感知できるので、栄養士や学生達に食品腐敗の早期発見入門として嗅がせたものだ。かつては、このサイロ臭のおかげで人ごみの中でも酪農家と容易に出会うことが出来たものだ。
土壌菌である酪酸菌はPHが4以下では発育できないので良質サイレージでは問題ないが、異常気象時に詰め込みをした今年は心配だ。
ルーメンから吸収された酪酸はケトン体となり、更にプロピオン酸の増加で胃や消化器の運動が停滞しケトーシスや四変を誘発する。
サイロ開封後の二次発酵
好気性変敗であって、好気性菌は乳酸菌が生成したりPH4以下の乳酸で絶滅しているが、細菌ではない酵母が生き延びていて開封による空気の供給と栄養源として乳酸を利用して急速増殖を開始する。酵母の活性はサイレージの温度を高めPHが上昇してカビや好気性菌が発生して変敗化が始まる。
皮肉なことに、不良サイレージは変敗が起こりにくい。これはすでに酪酸や有機酸が繁殖していて酵母やカビの発育を抑制するからだが、給与される乳牛にとっては酪酸による発病実験に曝されることになる。
本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。