後継者、酪農女性に贈る牛飼い哲学と基礎技術
連載46
第4胃について学ぼう 出産時の味噌汁が効果的 低カル血症や採食低下が四変の原因に
第4胃変位を体験しない酪農家は存在しない。NO!と言い切れる酪農家が名乗ってくれたら、その牛舎には研修生が列をなす。将来は、第4胃変位が歴史博物館入りとなり、良くもまあ性懲りもなく大げさな開腹手術などをして、痛め付けられた乳牛諸君はたまったものじゃなかったと同情されるだろう。
前回までこの欄で前胃のルーメンから後胃の4胃まで、この消化器の中で給与飼料の発酵消化吸収過程を述べてきたが、そもそも第4胃の位置はどこにあって何をしているのだろうか?
答えはヘソの横。10㍑の容量で胃液を分泌し飼料を消化するが、吸収はしない。消化分解後、十二指腸に送り出す働きをしている。子牛のヘソの位置は十分承知していても、成牛のヘソは?確認してみよう。
それが1、2、3、の前胃群と4の後胃との連携が異常を来たすと、4胃から十二指腸へ消化食物が送り出されなくなる。4胃は徐々に滞留した消化食物で拡張し、さらにルーメン内のVFA(揮発性脂肪酸)の一部が胃壁から吸収されずに4胃へ送入される。そして、4胃の運動弛緩が慢性化し「ガス」を発生させる。
また、穀類過給による「ルーメンアシドーシス」発症時には胃汁(ルーメンジュース)のPHが急激に酸性化。PH中性を好むセルローズ分解菌(大腸菌もどきのグラム陰性菌)が大量死亡して菌体内毒素エンドトキシン(大腸菌性乳房炎毒素)が産生される。
これが4胃へ流入して4胃の運動筋肉を弛緩させて「四変」を発症することも確認されている。エンドトキシンは大麦盗食時など「穀類中毒死」の原因であった。
産後は胎児が放出され収縮した子宮や出産前後の食欲減退で飼料摂取量、特に粗飼料が減少する。小柄となったルーメンは腹腔内に隙間をつくって第4胃が自由に移動することが可能になってしまう。粗飼料不足と濃厚飼料の過剰給与による酸性化で産生されたエンドトキシン毒素やVFA(揮発性脂肪酸)などの流入で第4胃に発生したガスが貯留する。その空間へ4胃内ガスが上方に押し上げ、第1胃の横まで移動=変位した状態が第4胃変位である。
35年前私が勤務した鯉淵学園の隣町にある東大牧場で茨城NOSAI診療所が日本で初めて四変の開腹手術を成功させた。その後、筆者も研修を受け、千葉県内へ普及させたが、この開腹手術は盗食などで第1胃を切開手術し、盗食物を全部取り出すという力ずくの手術と違い、人の盲腸手術のように誰でも簡単に実施できる手技であって、早期に手術を行うことで容易に回復する時代となっている。
だが、やはり開腹手術であり、更に類を呼ぶように飼養頭数の1割に及ぶ例もあるくらい連続多発することから、経営面の損失は大きいはずだ。予防対策に四苦八苦しているはずなのだが実態は「赤信号皆で渡れば怖くない」そのものである。
あまりにも身近な「四変」だけに、さまざまな対策が考えられるが、要因が複雑で特定細菌の感染症のようなわけには行かず「ワクチン」も守備範囲外で、また乳房炎が撲滅できないように、職業病として疫学的調査からいろいろ対策が練られているが、「実践」あるのみだ。
北海道の調査では、乳牛の太り具合を数値化したボディコンディションスコア(BCS)で、第4胃変位手術牛群は正常牛群と比較して乾乳の始めから太っており、分娩が近づく6週目から低下している。乾物摂取量を示す血清中のマグネシウム値が分娩前の8週目で著しく低下していることから飼料の採食低下が起きていることが確認された。
年々増加する濃厚飼料の給与に比例して第4胃変位多発の傾向にあり、その殆どは産後1ケ月以内に発生する。乳熱、ケートシスとともに分娩直後に陥りやすい周産期病との合併症である。
乾乳期に過肥牛(BCS4以上)となった牛は分娩後乾物摂取量が上がらず体脂肪の動員により身を削り泌乳する。このような牛は、肝臓を酷使して脂肪肝となり、ケトーシスなどの代謝障害を引き起こし第4胃変位をも併発する。
だが、一方では痩せ過ぎ、あるいはベストコンディション(BCS3・5)で乾乳に入った場合、乾乳期間の60日で胎児はその成長の3分の2の発育をするため、第1胃は大きくなった子宮に腹底から持ち上げられる。
どんな牛でも周産期には、通常の飼養状況下でも分娩が近づくにつれて成長した胎児による子宮の圧迫で第1胃容積は減少し、ストレスなどで飼料摂取量が減少する。
このような状態で分娩を迎えると、採食低下による栄養不足となり過肥牛と同じように体脂肪の動員が起き、代謝障害を引き起こして第4胃変位が発生する。過肥も痩せも脂肪肝で悩まされている。
他に飼料によるもの以外に低カルシウム血症が原因となって第4胃変位が発生する。低カルシウム血症になると消化器を構成する平滑筋の機能低下が起こり第4胃の弛緩を引き起こす。低カルは、有名な乳熱・起立不能に代表されるが、子宮筋や乳頭口の括約筋、更に心臓筋肉にまで悪影響し、子宮炎、乳房炎、心不全の原因となる。
泌乳期における濃厚飼料の最大給与量を14㌔から11・5㌔に減らしたところ、産後は牛の状態を観察しながらゆっくり増給することで事故が減少した例がある。
また、給与量が多くてもそれに見合って乳量が持続していれば四変は無縁だった例もある。
ここでも固体管理が重要であった。乳熱の血液検査所見であるカルシウム値も分娩が近づく7週目から低下していた。
以上をまとめると、採食低下によるミネラル不足、エネルギー不足とそれを補うための筋肉中のアミノ酸放出による筋力低下などで乳熱、ダウナー症候群、第4胃変位などの周産期病が起きると考えられる。そのため「第4胃変位症発生は当たりまえ」と不感症になっている。
とかく頭数と出荷乳量でひたすら「数字」で競い合う傾向が高まっている。そうなると、電話1本で手に入る購入飼料が主体で、取り扱いが容易な濃厚飼料に依存し、品質が不確定な乾草は価格のみで不定量を購入。ますます濃厚偏重となって飼料からも「四変」は避けられない。
これらを人為的職業病と割り切るか。牛は我々人間に生活の糧をもたらしてくれる生き物だ。牛様として、人種ならぬ「牛権」を尊重し、牛の生理を理解して管理しなければならない。
例えば、出産時には生まれた子牛の体重分くらいの「味噌汁」を飲ます。味噌汁は脱水を和らげルーメン内の毒素を薄め、排泄を促進し血行を改善する効果がある。
さらに、筋力を正常に保つため、または低カルや低血糖を回復させるために、3~5日は自然にやさしいカルシウムやグリセリンといったドリンク剤を投与する心遣いが欲しい。さあ!固体管理を見直そう!!
本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。