後継者、酪農女性に贈る牛飼い哲学と基礎技術
連載67
牛のメタボ対策 濃厚飼料偏重は脂肪肝の源 自給飼料で「自救」しよう
酪農は自然環境に生きる農業
晩秋から冬にかけて、夜長で高緯度にある北欧原産のホルスタインは、本来は乾乳期にあって牧草が芽吹く早春に無事出産。母牛の泌乳量の増加に呼応して摂食する自然の恵みである牧草生育の増加に、生理的かつ合理的にマッチしてきた長い歴史がある。
本来、酪農は農業部門にあって土地を離れた加工産業部門ではなかった。しかし、バイオ燃料問題に端を発する穀物の高騰や物価、食料高騰の現時点までは、電話1本で決済する輸入飼料に依存した濃厚飼料偏重型で自給飼料は薬味程度、人の飽食同様、食餌性脂肪肝に陥っている。
人や牛のメタボ対策からも、休耕田や飼料米など自給飼料を国民的な「自救」対策として土地に密着した季節や自然環境を主体に取り組もう。
食餌性脂肪肝・過肥症候群
泌乳末期は最も健康体である。胎児の成育状況はと言うと、まだ小柄で母体は身が軽く元気そのもの。しかし、漫然と給餌を継続していると、繋留飼いでも両隣の餌を盗食。放し飼いではボス的存在となって過食から肥育状態となる。その結果、乾乳期にかけて濃厚飼料の過食が続いて過肥牛となる。
産前の過肥牛は分娩後、様々な病気を発症する。難産、後産停滞、食欲不振、ケトン尿症、発熱または低体温、産乳量低下、進行性削痩などである。
また、食餌性脂肪肝、産後の起立不能症、第4胃変位などの代謝障害も発生し、発情兆候もなく、繁殖成績が低下する。これら代謝病の発生は分娩前後に集中するので周産期疾病という。
周産期疾病の発生要因
分娩前2~3週間から分娩後にかけて乳牛は劇的な変化を遂げる。胎児の成長量は急増し、栄養要求量も増加するが、腹腔内は子宮と胎児に限っただけでもドラム缶大の重量とボリュームで消化管を圧迫。さらに、食餌性脂肪肝が重なって飼料の摂取量が減少する。
分娩2週間前頃から摂取量が低下し、特に分娩1週間前には残餌が明らかとなる。肝臓に蓄えられるグリコーゲンは2㌔で、その量は40㌔の産乳量分に過ぎない。増加するエネルギー要求量に応えられるのは2日分で、これが代謝性周産期疾病の誘因となる。
周産期は免疫機能も低下していると当時NOSAI宮城の佐藤繁氏(現岩手大学農学部教授)らが研究報告をしている。免疫担当細胞であるリンパ球や好中球の機能低下が飢餓性脂肪肝が増大する泌乳初期の栄養摂取バランスが不足する時期に合致。逆にストレスに関与する副腎臓ホルモンは増加した。
リンパ球機能が分娩前3週間から低下し、分娩当日か産後1週が最低値を示し回復に4週を要した。機能低下期間中にケトン体や副腎ホルモンが増加していた。なお、免疫賦活剤の投与は機能の回復がみとめられた。
低カルシウム対策にカリウムも減らそう
乾乳期間中は次期産乳量の向上を期待してタンパク質を補給したい。給与法が簡単なヘイキューブを使用するようだが、マメ科は特にカルシウムが禾本科の10倍も高い。さらに、低カルシウムを助長するカリウムが2.5%と高率である。乾乳中にミネラル代謝を回復させるため、カルシウムやカリウムの給与は避けねばならぬ。
貴重な動物性必須アミノ酸が豊富な菌体タンパク質をルーメン内発酵微生物から自家生産させるため、チモシー、オーツヘイの乾草を選んでカルシウム、カリウムが少ない禾本科牧草繊維で発酵を促進するルーメンマットを確保することだ。
乾草を残餌させないように糖蜜添加もよい。同じ糖質も澱粉類はアシドーシス併発のリスクが高く心配だが糖蜜やグリセリンは周産期疾病の予防に有効だ。
飢餓性脂肪肝
分娩直前まで乾乳で不要であった泌乳のためのエネルギーや乳脂肪の材料となる脂肪は、分娩後から突如必要となる。出産ストレスなどで分娩後の飼料摂取が十分でないため皮下脂肪や筋肉の体脂肪が動員される。脂肪は血流に溶け込めないため、アルブミン蛋白と結合して可溶性の遊離脂肪酸となって血流で肝臓に運ばれる。
産前後に弱体化している肝臓は遊離脂肪酸から中性脂肪・トリグリセリドを生成するが、処理能力が弱く、肝臓に沈着して飢餓性脂肪肝となる。未処理の遊離脂肪酸はケトン体となってケトージスを誘発する。過食も飢餓も脂肪肝を招く。
実験では絶食3日目から体内脂肪が遊離脂肪酸となって肝臓へ動員された。すると、絶食性脂肪肝が発生し始め、栄養不足のため乳腺上皮細胞の脱落が始まり、乳中の体細胞数が増加した。
体重推定巻き尺を有効利用
ボディコンディションスコアの見方を解説したものが多いことから、これを参考にして体重測定尺での測尺も行って欲しい。
例えば、体重が600㌔の場合、胸囲は196㌢、しかし、体重が10%増加、または削痩した場合、どのくらい胸囲が変化するだろうか?答は7㌢だ。胸囲が2㍍では5%増の633㌔。
さらにその10%増の700㌔になると、胸囲は7㌢延びて207㌢。このラッキーセブンを念頭に、ついでにご本人のヘソ周りも忘れずに測尺して健康体を確保してほしい。
泌乳末期に痩せ気味の牛は、インシュリンを活性化させて脂肪を有効に貯蔵させるよう、圧ペン大麦を給与し、必ず搾乳を続けながらボディコンディションを整えよう。
本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。