後継者、酪農女性に贈る牛飼い哲学と基礎技術
連載12
データが示すベスト牛群 7割以上で10万以下も 牛の年齢産次数 体細胞数とは無関係
体細胞でペナルティがつくと、乳代に響くだけに人情として頭を痛める。体細胞が多いという違反切符には、①乳量が減っている②乳質が落ち、味が悪い③牛の寿命が短い の3点が「重症である」との警告で、直ちに対策を講じなければならないが、これらを怠る酪農家は多い。
まず、①の乳量の減少は、毎回の乳量、または、毎月の売上額をグラフに書き込み、日頃から検討していないと感知できない。
同じ経営規模で体細胞が10万以下の優良酪農家の乳量と比較できると簡単なのだが、聞きに行くのもプライドが許さない。
そこで、毎10日ごとの乳質報告書に乳量の表示があればと思う。せめて搾乳牛1頭あたりの平均乳量が報告されれば体細胞と乳量の関係が明らかになるはずだ。
手元には20万の牛の乳量を基準に算出した結果があるが(当時は50万規制を考慮したり、脱落細胞説などで10万以下は無理と思われて20万とした)、30万前後で3%、50万前後で5~8%の減乳損失である。
また、乳房炎の治療や抗生物質対策で廃棄する乳量を集計したら毎日3~5%で、これは年間10~18日分に達していた。日産平均1㌧の酪農場では、年間80~100万円の損失額である。
②の味の低下は、ほとんどの酪農家は自家産乳を消費しないため、ましてや他人の搾った乳の味を知るチャンスがない。そればかりか、売るほどある自家産乳には手をつけず、わざわざスーパーの商品乳を飲む人が跡を絶たない。
これは、自家産乳の品質に自信がない証拠でもあり、ペナルティがつけられる酪農家に至っては、これを飲まされる消費者(私を含む)は抗議したいと思うはずだ。
自家産乳でアイスクリームを作り、道の駅で販売している酪農家は体細胞が15万を超えると味が悪く、商品にならないと身をもって体験しているため、10万以下の自信作を販売している。 ③の短命は、現在、各酪農家の牛群の平均産次数は3産を切っている。その原因は、産次数(年齢)を重ねるにつれ、体細胞数が多くなり、牛群のバルク乳の体細胞数が明らかに高くなる。
①で述べたように体細胞が多い牛は反対に乳量が低く、繁殖も不調で次々に淘汰された。この淘汰によって成績表は一時的に好転して、ペナルティは回避できたのだが、この成績は長続きせず、再び淘汰が繰り返される。
現在は6産以上の牛を探すのに苦労する時代を迎えている。この牛の短命は体細胞規制の厳しさがもたらしたと苦情を言う人がいるが、本人の技量不足で産乳量が激減し、繁殖面でも「空胎」で、さらに肢蹄が弱く「廃牛」への道を急がせた。
結局牛群は若齢化して乳牛個々の耐用年数が半減し、償却費は倍増。短命は牛ばかりか酪農家の命までも縮めている。
1987年と古いデーターだが、別海農業共済組合診療所の「産次別の体細胞数」の貴重な調査報告書では、管内の出荷乳の体細胞のベスト8戸とワースト8戸の合計544頭の固体別の体細胞数を測定した産次別の分布図がある。
この分布図から別表のようにまとめてみた。ベスト牛群は、初産の65%が10万以下であり、2産は73%とさらに高率で、産次を重ねても確実に4割以上を確保しているのに対し、ワースト牛群は初産ですでに40%ギリギリで逐次産次増で減少し、3産で20%、5産以降はベスト牛群の5~3分の1へ激減。8産以上は1頭も存在しない。
30万以下の分布もベスト牛群は70~94%を7産まで維持しているが、ワースト牛群はすでに3産で47%と過半数を割って低下し、5産あたりから2割程度とベスト牛群の3分の1まで悪化していた。
約20年前、牛の健康のバロメーターとして体細胞減少策に取組み、基本的な搾乳管理を実行してきたベスト牛群のように、7産以上でも10万以下の最高レベルで出荷されているように、牛の年令、産次には関係ないことが明らかである。
北海道産生乳の平均体細胞数が23・7万で、都府県産生乳よりも4万以上は低いという報告がある。北海道はさらにベスト牛群が増加し、10万以下の高令牛も増加し、産乳効率がさらに拡大していると予想される。
血中体細胞(白血球)は600万
赤い血液500㌔から牛乳1㌔が生産されている。その血液中には乳中体細胞の主力である白血球が600~800万存在し、健康乳の100~200倍に相当する濃度である。しばしば、血乳騒ぎが起きるが、これは出血多量で牛が死亡すると思われていたからだ。
一方、白血球は赤ではなく、乳白色で目に訴えられず、起立不能になるまで放置されやすい。
赤色の赤血球は血液中に80億個、白血球の100倍、乳中体細胞の1~2万倍存在するため、乳腺毛細血管の損傷で鮮明な赤色乳となる。
赤血球は血管の損傷で出血するが、白血球は血管壁が炎症物質などで透明性が高まって電解物質より大型の白血球がアメーバー状に遊出する。炎症初期に塩類電解質が透過して、その後発に白血球が遊出するので牛乳の味(塩分)の変化が先行してから体細胞が増加する。
血中白血球は、好中球60%、リンパ球35%、単球5%の割合であるが、遊出初期は好中球が主体で、細胞数も急増するとともに崩壊も早いが、慢性化では単球マクロファージが多く、数も中程度となる。
本連載は2003年5月1日~2010年4月1日までに終了したものを著者・中野光志氏(元鯉淵学園教授)の許可を得て掲載するものです。